ダンサーの気迫が感じられ、グランド・バレエの醍醐味を堪能した東京バレエ団の『海賊』

ワールドレポート/東京

佐々木 三重子 Text by Mieko Sasaki

東京バレエ団

『海賊』アンナ=マリー・ホームズ:振付(プティパ、セルゲイエフに基づく)

東京バレエ団が、創立55周年シリーズの第1弾として、同時に、昨年のマリウス・プティパ生誕200年記念シリーズの掉尾を飾るものとして、アンナ=マリー・ホームズ版『海賊』をバレエ団として初演した。
1856年、パリでジョゼフ・マジリエの振付により初演された『海賊』だが、ロシアではジュール・ペローやマリウス・プティパらによりいくつものヴァージョンが生まれた。ホームズ版は、コンスタンチン・セルゲイエフ版(1973年)に基づき、1997年、彼女が当時、芸術監督を務めていたボストン・バレエで初演したもので、その後アメリカン・バレエ・シアターやミラノ・スカラ座バレエ団でも上演されて評価を高めた。ホームズは、壮大なスケールのこのグランド・バレエを2時間半(休憩2回)にまとめ、見応えのある男性の踊りを増やし、第3幕のオダリスクのパ・ド・トロワを第1幕の市場に移して各幕の男女の踊りのバランスを取り、登場人物の性格付けをより明確にするなど、色々と手を加えた。ダブルキャストの初日の公演を観て、ホームズ版のこのような優れた点を実感できた。『海賊』をレパートリーに持つ日本のバレエ団は少ないうえ、男性舞踊手の力量には特に定評のある東京バレエ団だけに、今回の公演は注目されていたが、実際、期待をはるかに超えた、極めてレベルの高い舞台になっていた。

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© Kiyonori Hasegawa

プロローグでは、海賊の首領コンラッドが手下たちを率いて船でトルコへ向かう様が描かれる。続く第1幕は賑やかな市場で、競りに掛けられた奴隷の少女メドーラと一瞬で恋に落ちたコンラッドが、彼女を買い取った太守パシャの元から救出するまでがスピーディーに描かれる。踊りでは、奴隷商人ランケデム(池本祥真)、コンラッド(柄本弾)、仲間のビルバント(金指承太郎)、首領の奴隷アリ(宮川新大)が、それぞれの役柄に合った爽快なジャンプで登場して楽しませた。柄本は、バイロンの同名の物語詩に書かれた高潔な海賊をイメージさせるように、風格のあるソロを踊った。オダリスクのパ・ド・トロワは競りに掛けられる女奴隷の踊りとして挿入され、涌田美紀、二瓶加奈子、吉江絵璃奈が卒なく踊った。メドーラ(上野水香)もパシャ(木村和夫)の前で踊らされたが、この場の見ものは、何といってもランケデムと奴隷の娘ギュルナーラ(川島麻実子)による "奴隷のパ・ド・ドゥ" だった。池本がバネのようなジャンプと吸い付くような着地や、威勢の良いマネージュをみせ、川島も美しい脚さばきや回転をこなして、見せ場を築いた。

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© Kiyonori Hasegawa

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第2幕は海賊が潜む洞窟。メドーラとコンラッドは愛を確かめ合い、海賊たちは財宝を奪い、奴隷の娘たちとランケデムも連れ帰ったことを喜び、踊り興じた。だが、コンラッドが娘たちを解放して欲しいというメドーラの懇願を受け入れたことに、ビルバントは反発。ビルバントはランケデムと手を組み、コンラッドを眠らせて殺そうとするが、メドーラの反撃に遭い、腕を刺される。騒ぎに乗じてランケデムはメドーラをさらって逃げ、ビルバントは目覚めたコンラッドに素知らぬ顔で忠誠を誓う。そんなスリリングな展開の中に、多彩な踊りが詰め込まれていた。最大の見せ場はメドーラ、コンラッド、アリによるパ・ド・トロワ。宮川の豪快なジャンプや逞しいピルエットが冴え、上野はしなやかに脚を振り上げ、強靱なフェッテをこなし、柄本も完成度の高いジャンプや回転で応じた。荒くれ者ビルバントの金指は派手に銃を打ち鳴らして登場し、恋人アメイの奈良春夏とデュエットも踊り、仲間の海賊とその女たちの賑やかなアンサンブルを率いた。対照的に、寝室のシーンでは、上野と柄本のロマンティックなデュエットがしっとりと紡がれた。

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第3幕はパシャの宮殿で始まる。パシャはメドーラが戻ったことを喜び、オダリスクたちが花園で踊る夢を見る。「踊る花園」では、ピンクのチュチュを着た女性たちの群舞が美しくそろい、華やかで優雅な雰囲気を醸して夢の世界さながらだった。踊りの美しさで見せるのはここまでで、この後、物語は活劇さながら、畳み掛けるように進行した。コンラッドたちは巡礼に変装して宮殿に入り込み、パシャたちを追い払う。ビルバントの裏切りを知らされたコンラッドは彼を撃ち、メドーラたちを連れて海賊船に乗り込むが、嵐に遭って難破。生き延びたコンラッドとメドーラが無事を喜び、抱き合う姿を浮かび上がらせてエピローグは幕を閉じた。
バレエ団が総力を挙げて臨んだ『海賊』だけに、グランド・バレエの醍醐味を堪能させる完成度の高い舞台に仕上がっていた。また、ダンサーの一人一人から溢れ出る気迫のようなものが感じ取れ、いつも以上に密度の濃いステージになっていた。最後に、ダンサーの宮川と池本が競うように傑出した演技を見せたことも記しておきたい。ともあれ、再演が待ち遠しい『海賊』である。
(2019年3月15日 東京文化会館)

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