海賊も美女も大活躍の冒険活劇! 東京バレエ団『海賊』公開リハーサルレポート

ワールドレポート/東京

坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi

東京バレエ団のアンナ=マリー・ホームズ版『海賊』(バレエ団初演)が、いよいよ3月15日に初日を迎える。ホームズ版は、アメリカン・バレエ・シアター(ABT)、イングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)、ミラノ・スカラ座などが採用しており、各キャラクターの魅力的な見せ場はそのままに、物語がテンポよく展開するのが特徴だ。
ホームズ女史は2月初旬に来日し、2週間にわたる指導の後、2月26日再来日、本番直前までブラッシュアップを行うという。

ホームズ女史を迎えて2月7日に行われた公開リハーサルと、記者懇親会の模様についてレポートする。

個性的なキャラクターが美技をぶつけあう

「『海賊』は男性ダンサーにとって憧れの全幕バレエです」と、海賊の首領コンラッドを演じる柄本弾は語る。なぜ「憧れ」かといえば、跳躍や回転など、男性ダンサーの魅力をアピールできる見せ場がたっぷり詰まっているから。しかも、颯爽たるリーダーのコンラッドを筆頭に、その忠実な部下アリ、こすっ辛い奴隷商人のランケデム、コンラッドと敵対する手下のビルバントなど、キャラクターの一人ひとりの個性が濃くて目が離せない。
アリを演じる宮川新大も、ドイツ留学時代、他の男子生徒たちと夜な夜な寮を抜け出し、ホームズ版の『海賊』の映像をスタジオで見ながら「技をマネしていた」経験があるという。

さて、ホームズ女史、斎藤友佳理芸術監督らが見守る中、嵐の海を思わせるピアノの前奏が鳴り響き、第1幕のリハーサルが始まった。首領コンラッド(柄本弾)が率いる海賊たちが上陸したのは、賑やかなトルコの港町。奴隷市で美女たちが売りさばかれようとしている。高いジャンプをたっぷりと織り込んだ柄本のソロから、映画や冒険小説から抜け出したような「海の男」の空気が漂う。そこへ通りかかるのが、トルコの太守パシャの後宮に売られようとしている美少女メドーラ(上野水香)。柄本をひたと見つめ、サッと花を投げるしぐさがなんともコケティッシュだ。二人はたちまち恋に落ち......と、ここまでの展開は速い。続いてパシャ(木村和夫)が現れ、奴隷商人のランケデム(池本祥真)が「営業」を開始する。

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柄本弾、上野水香 © Shoko Matsuhashi

まずは三人のオダリスクが、細かなステップを駆使し、まさに目移りしそうな美技を競い合う。「みんなきれいだけど、今ひとつピンとこないなあ」といわんばかりのパシャの反応を見て、ランケデムが顔をヴェールで覆った美女を連れてくる。メドーラの友達のギュルナーラ(川島麻実子)である。ランケデムはパシャをじらすようにヴェールを引き、ギュルナーラはくるくる回りながらほどかれてゆく。ギュルナーラは「嫌」「助けて」という身振りをしつつ、ランケデムはパシャに彼女の魅力を見せつけようと下衆な表情で踊る「奴隷のパ・ド・ドゥ」だ。川島は複雑なステップも高速回転もたおやかにこなしてゆく。トウで小さなジャンプを繰り返すシーンでは「(床を)プッシュ! プッシュ!」とホームズ女史から声が飛んだ。

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オダリスク © Shoko Matsuhashi

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川島麻実子、池本祥真 © Shoko Matsuhashi

最後に、ランケデムはメドーラをパシャに引き合わせる。パシャに差し出した手をサッと引っ込めたり、パシャの杖を取り上げたりする上野のメドーラは茶目っ気たっぷり。
メドーラに振り回される木村のパシャは、ユーモラスで上品ですらある。コンラッドの手下ビルバント(金指承太郎)とその恋人アメイ(奈良春夏)を中心に、
海賊たちの群舞が盛り上がる中(この群舞がまた、ロープを引く、ボートを漕ぐなど「海の男」らしい動きが入っていて楽しい)、コンラッドは「お買い上げ」されてしまったメドーラ奪還をはかり、パシャの宮殿に乗り込んで彼女を助け出す。20190207-036_Photo_Shoko-Matsuhashi.jpg

© Shoko Matsuhashi

上野はメドーラについて「どんな時も前向きで明るさを忘れない女性。お姫様よりもう少し人間的な温かみのある役柄につくられていて、私はすごく好きです」と語る。川島は、ホームズ版の映像を見た時、印象に残ったのがギュルナーラ役だという。「1 幕は切なそうに踊っているのに、3 幕になるとすっかりその場の雰囲気になじんで、パシャたちとのやり取りを笑顔で楽しんでいる。切り替えが早いところが面白いですね」。したたかでチャーミングな女性キャラクターや、憎めないパシャの造形も、ホームズ版の大きな魅力だ。

続いて、別キャストによる第二幕が始まった。ガラ・コンサートなどでよく披露されるメドーラとアリのパ・ド・ドゥは、ホームズ版ではコンラッドを交えたパ・ド・トロワとして踊られる。アリ役を踊ったのは、先ほどランケデムを演じていた池本。まるで空を泳ぐような高いジャンプ、空中での鮮やかなポーズの切り替え......。瞬きを許さない池本の踊りに、記者席がどよめく一瞬もあった。
見せ場はこれだけでは終わらない。秋元康臣のコンラッドは端正な踊りぶりで、ビルバント(井福俊太郎)との対決シーンでは「孤高の海賊」らしい強さを見せつける。沖香菜子のメドーラは愛らしく、ステップは生き生きと弾むよう。コンラッドとのロマンチックなひとときを描く寝室でのパ・ド・ドゥでは、軽やかに回転しながら後ろ向きに秋元の腕に飛び込んでいく。その可憐な表情は、技術的な難しさを一切感じさせない。

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沖香奈子(メドーラ)、秋元康臣(コンラッド)、池本祥真(アリ)© Shoko Matsuhashi

多彩な個性をひとつの舞台へ

リハーサル後の記者懇親会には、ホームズ女史、斎藤監督、上野、柄本、川島、宮川が出席した。斎藤監督は、ホームズ版『海賊』について「今の東京バレエ団のダンサーの個性を生かし切れる全幕作品」と語る。「シンプルでわかりやすく、ユーモアもロマンスもある。ちょうどよい長さで、大切なキャラクターの踊りはしっかりと残されている。これしかないと思いました」。ホームズ女史はレニングラードで、ワガノワの直弟子であるドゥジンスカヤら名教師に学んでおり、『海賊』をまとめるにあたってドゥジンスカヤに何度も相談したという。
「私自身、パ・ド・ドゥを楽しんで踊っていたので。ステージングをするのも楽しいんですよ」とホームズ女史。

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© Shoko Matsuhashi

今回は主要4役を除く配役をオーディション形式で決定したことも注目される。オーディションにはキャリアを問わず応募でき、最終的にはホームズ女史の判断で配役したという。たとえばオダリスクの第3ヴァリエーションに採用された吉崎絵璃奈は研修生だ。アリ役を踊る宮川と池本はランケデム役のオーディションにもチャレンジし、見事役
を勝ち得た。日替わりで二役を演じるため、宮川は「ときどき自分がアリなのかランケデムなのかわからなくなる」と笑った。

また、ホームズ女史の温かな指導のもと、ダンサー同士の結束がいっそう強まっていることも間違いないようだ。「ホームズ先生がダンサー一人ひとりの良さを引き出そうとしてくださるので、踊っていて楽しい。燃え尽きてしまいそうなくらい大変な踊りが多いのですが、みんながそうなので励ましあい、鼓舞しあっています」(柄本)。「役柄は違っても、同じ舞台の上に仲間がいると思うだけで心強いんです。舞台袖にいても助け合える。その温かな雰囲気が今の東京バレエ団だと思います」(川島)。

バレエの父プティパの生誕200年記念公演の最後を飾る『海賊』。バレエ団全体がひとつになったさわやかな高揚感の中で、間もなくその幕が開く。

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© Shoko Matsuhashi

東京バレエ団 『海賊』

2019/3/15(金) 〜 2019/3/17(日)
東京文化会館 大ホール

2019/3/21(木・祝)
富山 オーバード・ホール

2019/3/23(土)
兵庫県立芸術文化センター

詳細は https://www.nbs.or.jp/

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