「Manuel Legris 『Stars in Blue』Ballet & Music」開幕直前記者会見レポート

ワールドレポート/東京

佐々木 三重子 Text by Mieko Sasaki

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マニュエル・ルグリ © 羽鳥直志

ウィーン国立バレエ団の芸術監督で、元パリ・オペラ座バレエ団のトップスターだったマニュエル・ルグリを核に据えた「Manuel Legris 『Stars in Blue』Ballet & Music」と銘打った公演が、3月8日と9日の東京芸術劇場を振り出しに、大阪、宮崎、名古屋で開かれる。"ダンスと音楽のコラボレーション"をコンセプトに、ルグリほか名門バレエ団のプリンシパル3人と、国際的に活躍する日本の若手演奏家2人が、コンサートホールのステージ上で共演するというもの。ルグリが選んだダンサーは、ボリショイ・バレエのオルガ・スミルノワとセミョーン・チュージンにハンブルク・バレエ団のシルヴィア・アッツォーニと、精鋭揃い。演奏家は、2009年のハノーファー国際コンクールで史上最年少の16歳で優勝したヴィオリンの三浦文彰と、2007年に20歳でロン=ティボー国際コンクールで優勝したピアノの田村響で、バレエ抜きの楽曲だけの演奏も行う。ルグリは、パトリック・ド・バナが彼とスミルノワのために振り付けた新作『OCHIBA〜When leaves are falling〜』と、ナタリア・ホレチナ振付の『Moment』の2作品を踊る。リハーサルで多忙な中、6日、東京芸術劇場で、参加者たちが揃って記者会見に臨んだ。ダンサーたちは何度も来演しているが、皆それぞれに「日本に来るのは大きな喜び」「日本で踊るのは特別なこと」などと述べたあと、今回の公演について語った。

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登壇者 © 羽鳥直志

最初に、『Stars in Blue』全体のディレクションを行ったマニュエル・ルグリが公演について質問された。ルグリは、「私が最初に日本に来てから35年になりますが、その35周年のバースデイをこのような形で祝うことができて光栄です」と語った。続けて「私と音楽の関係は非常に特別なもので、今回は素晴らしいダンサーと振付家に加えて、素晴らしいヴァイオリニストとピアニストと共演します。普段は舞台で大きなセットに囲まれて踊りますが、今回はそのような装置はなく、とてもシンプルなステージで踊ります。これまでのキャリアを通じて、沢山のダンサーと共演することができましたが、今回は特にオルガと一緒に踊れるのがとても嬉しい。彼女のような若い世代の人と共演できるのは、私にとって得難い経験です。すべては、私にサジェストしてくれたパトリック・ド・バナのおかげです。彼のおかげで、『OCHIBA』は主題的にも今の私とオルガにふさわしいものになったと思います。」

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パトリック・ド・バナ © 羽鳥直志

世界初演となる『OCHIBA』を振り付けたパトリック・ド・バナは、「これはとても詩的な作品」と強調し、創作について説明した。「私は本を読むのが好きで、色々な本からインスピレーションを受けて創作しますが、『OCHIBA』は詩人のアレッサンドロ・バリッコの『絹(シルク)』に書かれた美しい物語から創意を得ました。19世紀に、蚕を求めて旅するフランス人が日本にたどり着いて美しい女性に出会い、ミステリアスな恋をするという物語です。彼は彼女に触ることもせず、話しをすることもない。ある意味、最も純粋な形の恋というものがそこにあります。」
ルグリのパートナーにオルガ・スミルノワを選んだことについては、「これはオルガだなぁと最初に感じたのは、『絹』に出てくる女性が、夫であると思われる武将の足下に横たわっていて、目だけ開けてまた閉じるといったように、とてもスピリチュアルな女性として描かれているからです。以前、マニュエルとの繋がりでガラパフォーマンスをさせてもらった時に、オルガとセミョーンの素晴らしい舞台を拝見して、オルガは非常にピュアなダンサーだと思いました。今ここで告白しますが、私はその時から彼女に惚れていました。それで、是非この作品を踊っていただきたいと思ったのです」と笑いながら語った。

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© 羽鳥直志

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オルガ・スミルノワ © 羽鳥直志

これを聞いたスミルノワは、「ルグリとパトリックが私のことを沢山お話しになったので、私としてはとても話しづらい状況です」と照れながら、「ルグリと共演する、しかもパトリックが私たちのために作品を創って下さったということは、私の人生にとって大きなプレゼントです」と興奮気味に語った。そして、今回の特殊とも思える創作のプロセスについて説明した。「私はボリショイでのステージ数が多いし、ルグリもウィーン国立バレエ団の仕事でお忙しいので、一緒にリハーサルする時間がなかなか取れません。そこで、パトリックに提案しました。モスクワに来て、私のステージを観て、私のために作品を創ってもらえないでしょうか。ウィーンに行かれて、ルグリのために作品を創ってもらえないでしょうか。そして、この二つの作品を合体させたら面白い作品ができるのではないでしょうか、と。そのような新しい創作のアプローチの方法を提案したら、非常に良いアイデアだと言って下さった。これは"二重奏"なのですが、一重奏と一重奏が合わさって二重奏になっているという、とても面白い形の作品になりました。」
さらに、「私にとってパトリックの作品を演じるということは、非常に新しい芸術の域を得たという感じです。この作品、冒頭は動きがとても少なくて、しかもシンプルな動きです。そのシンプルな動きで、いかに聴衆を引き込んでいくか、面白いものが始まるという予感を抱かせるか、ということになります。非常に難しいことですが、できるかできないかは初演を見ていただくしかありません。このような作品を踊るチャンスをいただけたことを非常に幸せに思います」と、パトリックへのお礼の言葉で締めくくった。

『OCHIBA』で使われる音楽はフィリップ・グラスの「メタモルフォーゼⅡ」と「Mishima/クロージング」。これをピアノで演奏する田村響は公演について、「私はバレエと共演するのは全く初めてです。こんなに素晴らしいダンサーの方たちと一緒に演奏させていただけることはとても貴重で、本当に光栄に思っています。私自身はピアノを弾いているので、ダンサーの動きをずっと凝視することはできませんが、音楽と動きの融合する美しさ、素晴らしさを(観客の)皆さんに体感していいただけたらいいなと思います。」

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シルヴィア・アッツォーニ © 羽鳥直志

ハンブルク・バレエ団のシルヴィア・アッツォーニにも質問が向けられた。彼女はケガで降板した木本全優に代わって急遽、参加することになったもの。「日本に来るたびにスペシャルと思いますが、今回は本当にスペシャルです。これだけ素晴らしい方たちと一緒に、しかもフレンドとして舞台を分かち合うなんて素敵なことです。キャリアの違う、異なる劇場から来た人たちが、お互い一生懸命勉強して学ぼうとしているので、リハーサルの一瞬一瞬がとても特別なことに思えます。毎日リハーサルを観察して、十分に身に付けて、ハンブルクに持って帰りたいです」とは、何とも研究熱心。
ルグリは、彼女がハンブルク・バレエ学校の生徒時代から憧れていたダンサーだそうで、「別の惑星の方」のように思っていたという。「その方が、今、こうして隣に座っていらして、ステージでも一緒にリハーサルをしたなんて」と感慨深げだった。
セミョーン・チュージンと共演するラフマニノフの『ソナタ』(ウヴェ・ショルツ振付)については、「毎日少しずつディテールを細かく詰めて、作品がより深化しているという手応えを感じています。一緒に仕事をするということは、パートナーからエネルギーをいただいて、それを自分のものにするということでもあります」と。今回の上演スタイルについて、「普段はオーケストラがピットに入って演奏するので遠くで共演している感じですが、今回は奏者の方が一緒にステージの上に乗るので、非常に密な関係といえます。非常に稀な、そしてとても美しい関係だと思います」と期待を込めて語った。

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シルヴィア・アッツォーニ、セミョーン・チュージン © 羽鳥直志

『ソナタ』でラフマニノフの曲を田村響と一緒に演奏する三浦文彰は、演奏家もダンサーと一緒の舞台に上がることにふれて、「ダンサーが演奏している目の前で踊られるので、迫力というか、ものすごい臨場感を感じながら演奏できると思います。つい先ほど、ほんの少し踊りと合わさせてもらいましたが、本当にきれいです。ビックリしながら、今回の公演を楽しみにしています」。チェロとピアノのための原曲をヴァイオリンで演奏するが、チェロとはまた異なる趣きを味わって欲しいとも語った。

シルヴィア・アッツォーニと共演するセミョーン・チュージンは、今の気持ちを聞かれると、「こんにちは、皆さん。私はよく日本に来ていますが、今回、シルヴィアを始め、アーティストの皆さんと共演できることは、私にとって大きな名誉です。私の気持ちは、本当にハッピーで、これ以上、申し上げることはありません...。あと、何を申し上げたらよいでしょうか。後は踊りを見ていただければ」と、笑いに紛らせた。

ルグリがソロで踊る『Moment』でピアノを弾くのは、ウィーン国立バレエ団の専属ピアニストの滝澤志野。ルグリが2020年で芸術監督を退任することを踏まえて、「『Moment』は初演から2年の時が経ちました。その間に色々なことがあり、ルグリさんもご自身の新しい将来を決断されました。時は流れていくもので、決してとどまっていないもの。2年前とはまた違う、新たな私たちの『Moment』が生まれるのではないかと思います。人を信じる心とか、人に心を動かされること、そういうことが芸術の源になると、私は信じています。そういうことを大事に、一音一音、演奏したいと思います」と語った。

これを聞いたルグリは、「『Moment』には、志野が語ったとおりのことが込められていると思います。作品は時と共に動いています、『Moment』も動いています。人生も進化し、成長していきます。振付も実際には成長して、変わっていると思う。今回の演目には新しい作品や古い振付作品もありますが、皆どんどん成長していき、新しいアーティストの手を経て生き続けると思っています。ダンサーも振付家も、新しい世代の方たちが次々に出てくるでしょう。今回は、ここに揃って下さった方々と一緒に、今の『Moment』をお楽しみいただければと思います」と語った。

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三浦文彰 © 羽鳥直志

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滝澤志野 © 羽鳥直志

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田村響 © 羽鳥直志

最後に、ダンサーと演奏家が同じステージ上でコラボレートすることについて問われると、ルグリが代表して答えた。「演奏する人たちが一緒のステージに上がり、ダンサーに近い位置で演奏することにより、私たちダンサーはより多くの音楽を聞くことができるのではないかと思います。もっと細やかに、かつより大きく、音楽の存在を感じることができるのではないかと。ダンサーと演奏家はとても親しい仲なのに、ステージ上で共演することは本当にないので、今回は貴重な体験になるでしょう。もしかしたら、自分たちダンサーにとって、新しい踊り方や、音楽と向き合う新しい方法を見出すことができるかも知れません。その意味で、私たちにとって、とても重要な体験になると思います」と締めくくった。

なお、ダンス作品とは別に、田村はショパンの華麗なワルツと抒情的なノクターンを弾き、三浦はパガニーニやラヴェルの難曲を演奏して、音楽の魅力をアピールする。

Manuel Legris 『Stars in Blue』Ballet & Music

<東京>
2019年3月8日(金)19:00開演 / 9日(土)14:00開演
東京芸術劇場コンサートホール(東京公演)

<大阪>
2019年3月11日(月)19:00開演(18:15開場)
ザ・シンフォニーホール(大阪公演)

<宮崎>
2019年3月14日(木)19:00開演
メディキット県民文化センター(宮崎公演)

<愛知>
2019年3月17日(日)15:00開演
愛知県芸術劇場コンサートホール(愛知公演)

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http://danceconcert.jp/

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