『ヤン・リーピンの覇王別姫〜十面埋伏〜』。鮮烈の歴史スペクタクルが間も無く開幕

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

『ヤン・リーピンの覇王別姫〜十面埋伏〜』が間もなく開幕する。
これは有名な中国古代の壮大な物語に題材を取った歴史スペクタクルともいうべき舞踊ドラマ。秦の始皇帝死後、群雄割拠の中、激戦を繰り返した西楚の覇王項羽と漢の劉邦。その覇王に愛された虞姫(虞美人)の哀しく高貴な愛の物語である。

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初日を2日後に控えた19日、急遽、記者会見が開かれた。「孔雀の聖霊の踊り」で世界の観客を一挙に魅了した抜群のプロポーションを昇り龍が描かれたワンピースに包んだヤン・リーピンが登場すると、多くの中国メディアも参加していた会場は、華やかさに溢れに俄然活気づいた。まず、撮影があり、リーピンの一挙手一投足に向けてフラッシュとカメラの電子音がひっきりなしに鳴る。そして招聘元でもあるTBSテレビの囲み取材が始まった。

ヤン・リーピンは、今回の作品に自身が出演しないことについて、「私はこれまで9作品を上演してきたが、そのうち出演しているのは5作品のみで、これまで日本で上演したものには出演しているが、出演していない作品も多い」という。出演していないと舞台全体を見通せるので、コントロールがしやすい。そして今回の『覇王別姫』は、過去の少数民族の舞踊を取り上げたものとは異なり、中国古代の歴史を題材としたものである。自身が少数民族出身である、ヤン・リーピンの舞台には、中国各地の民族の闊達な舞踊が展開されることが、大きな魅力の一つだった。

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「孔雀の精霊」© 宮川舞子

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今回の『覇王別姫』の舞台は、古代中国では神器とされたハサミが20,000丁も天に吊るされ、一方では切り絵師が延々と切り絵を作り続ける、という大胆なもの。ハサミは戦乱の最中にある人間たちの言い知れぬ緊迫感を表し、切り絵師の作業は永遠不変の時の流れを表す。
そして、これまでも『シャングリラ』や『孔雀の舞』『クラナゾ』などで見せた鮮烈なダンスは、武術の動きを採り入れた優麗で力強い超絶技巧が際立ち、ヒップホップ、コンテンポラリー・ダンスなどと伝統舞踊が渾然とし、中国的なアクロバティックな身体性が圧巻の動きをみせる。現代的な動きを印象付けるものとなっている。

そして、美しさを極めた虞美人を男性ダンサーに踊らせて、愛情の深奥を鮮やかに表す。この中国最高とも言われる身体能力を持つダンサーの深く的確な表現力には、リハーサルを指揮していたヤン・リーピンは、思わず涙してしまった、という。この舞台は伝統の題材を扱って、伝統突破するような新しい世界を目指しているともヤン・リーピンは語っている。
14億人にもおよび全世界に大きな影響を与え続けている、中国文化の神髄に迫る舞踊の舞台が世界ツアーを終え、いよいよ日本で開幕する。

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ヤン・リーピン/プロフィール

中国雲南省大理の少数民族、白(ペー)族出身。幼少から踊りに熱中していたが、一度も舞踊教育を受けることなく、天性の才能と創造力により国内外で評価される舞踊家になった。1971年、西双版納(シーサンパンナ)歌舞団に入団。1986年、自身の制作によるソロダンス『孔雀の精霊』で一躍有名になる。以後、多くの国との芸術交流を積極的に行い、舞踊芸術の普及と探索に努めてきた。演出家としても優れた才覚を発揮し、『雲南映象(シャングリラ)』『蔵謎(クラナゾ)』『雲南的響声』は、伝説的な舞台作品となっている。ヤン・リーピンの舞踊は民間芸術と土地から発している。天地自然と芸術から養分を汲み取り、自然体で踊る彼女は「舞踊詩人」「魂の舞者」と評される。

ヤン・リーピンの覇王別姫〜十面埋伏〜

芸術監督・演出・振付:ヤン・リーピン
2019年2月21日〜2月24日 Bunkamura オーチャードホール
https://www.bunkamura.co.jp/orchard/lineup/19_liping/

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