公演直前インタビュー 新国立劇場バレエ『ラ・バヤデール』ガムザッティ踊る 渡辺与布「弱さを隠した、美しいガムザッティを演じたい」
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インタビュー/坂口 香野
3月2日に初日を迎える新国立劇場『ラ・バヤデール』。
古代インドを舞台とする壮麗なグランド・バレエであり、舞姫ニキヤとその恋人で戦士のソロル、王侯の娘ガムザッティの確執という、濃密な人間ドラマも見どころだ。
今回、米沢唯、木村優里とともにガムザッティ役に抜擢されたのは渡辺与布。イーグリング版『眠れる森の美女』のカラボス役などで華やかな存在感を放っている注目の若手だ。
新国立劇場のリハーサルの様子や役づくり、本番への抱負などについて聞いた。
――ガムザッティは初役になりますね。配役決定を受けてどんなお気持ちでしたか。
渡辺 配役表に自分の名前を見たときは、本当に「胸がおどる」ような喜びと同時に、私にプリンシパル級の踊りができるのかなという不安とか、いろんな感情が一気にやってきました。ガムザッティはテクニック的にも難しい役で、基礎がしっかりしていないと彼女らしい「強さ」が出てこないので、課題がたくさん。私はどちらかというとゆったりとした踊りのほうが得意なので、華やかなジャンプや回転が多いガムザッティのヴァリエーションは、今回初めて経験する踊りです。でも、尊敬する(米沢)唯さんや(木村)優里さんにたくさん学ばせていただきながら、一生懸命頑張っていきたいなと思いました。
――『ラ・バヤデール』といえば、ソロルをめぐるニキヤとガムザッティの三角関係が見どころだと思いますが、渡辺さんはガムザッティという役柄についてどうとらえていらっしゃいますか。
渡辺 ガムザッティには性格が悪くて高慢な女性というイメージがありますが、私はそうは思っていなくて。王家の一人娘で、国民からも愛されて育った、素直で気品があって美しい心を持った女性なんじゃないかなと思うんです。身分は低いけれど、なんて素敵な人だろうとソロルに本気で恋をしています。今まで何不自由なく育ったので、失敗や「負け」を感じたことが一度もなかった。だから、大僧正が父親に「実はソロルは舞姫のニキヤと愛し合っている」と告げ口するのを聞いてショックを受けはするけれど、「自分はこんなに高貴で美しいのだから、こちらから頼みさえすれば、ソロルは自分のものになってくれるに違いない」と、なんの疑いもなく思ったと思うんです。
――なるほど! 素直で美しい女性だからこそソロルの心も揺れてしまう、という解釈ですね。
渡辺 ええ。ソロルも最初は、立場上、自分が仕える王の娘ガムザッティを拒めずに困ったとは思うのですが、ガムザッティと引き合わされて「おー、めちゃくちゃきれいじゃないか、こっちもいいかも」と思ったんじゃないかと(笑)。ソロルにそう思わせるような女性でいないと、物語がつながらないような気がするんです。
ガムザッティのほうは、「お父様、私、こんな素敵な人と結婚していいの!?」と、喜びでいっぱいです。ソロルの隣に座って様々なバレエを見ているシーンも、彼への目線やしぐさで、恋するガムザッティの気持ちを表現できればいいなと思っています。
――ニキヤとの「対決」も見どころですね。宝石を渡して「ソロルとの仲をあきらめて」というシーンを、いかにも高飛車な態度で演じるダンサーもいますが......。
渡辺 ガムザッティにしてみれば、ニキヤを気の毒に感じてもいたのかもしれません。権力者である父ににらまれたら望みはない、だから自分の大切にしている宝石を渡して、上手にあきらめてもらおうと考えた。それなのに、実際顔を見てみたら大変魅力的な美しさなので心が乱れる。説得しようとしても、ニキヤは「私は彼に愛されているんです」って一歩も引かないし......。
――その上、まさかの刃物沙汰という・・・。
渡辺 はい。刃物を向けられるという思いがけない仕打ちに、憎しみや嫉妬といった、今まで知らなかった感情が一気にわきあがってしまう。それが悲劇につながっていくと思います。あのシーンはまだリハーサルに入っていないのですが、この間、ニキヤ役の柴山紗帆さんとどんなふうに演じようかと話し合いました。それぞれ、ソロルへの思いをぶつけあいながら、美しくも激しくも悲しく、表現できたらいいなって思います。お客様を意識しすぎずに、二人の「対決」の世界をつくれたらいいなと。真摯にニキヤ役に向き合っている紗帆さんと、少しでも近づけたらと思います。
――楽しみです! ソロル役の渡邊峻郁さんとのリハーサルはいかがですか。
渡辺 渡邊さんはいつも温かくサポートしてくださる、頼りになる先輩です。私はパ・ド・ドゥの経験が少ないので、自分がやりやすいポジションで踊ってしまいがち。でも、少し軸を変えたほうがもっときれいにみえるよとか、このポーズでは、脚をがんと上げるより90度のほうが、きれいなラインが出やすいとか、いろいろ教えてくださって。パ・ド・ドゥは一人で頑張るんじゃなくて、二人で支えあい、たくさん話し合いながら作り上げていくものだということを教えてもらいました。お稽古がすごく楽しいです。
今はパ・ド・ドゥのリハーサルが中心ですが、今後、渡邊さんのソロルとどんな関係をつくりあげていけるか、楽しみですね。
渡辺与布、撮影:鹿摩隆司
――それにしてもソロルって、クラシック・バレエ作品の男性キャラクターの中でも際立って優柔不断という気がするのですが。
渡辺 よくないですよね。優柔不断なほうがモテるんでしょうか? 死んでゆくニキヤを結局見捨ててしまうのに、後で罪悪感に耐え切れなくなるし。私だったら嫌だなって思います(笑)。
1幕のガムザッティは、喜びいっぱいの恋する女性。でも、最後の結婚式では、もう彼の心は自分に向いていないと気づいてしまっています。実際にソロルと向き合ったとき、どんな気持ちが湧いてくるかはまだわからないですが、きっと不安でしかたないと思うんです。このままでは、私は決して幸せになれないって悟っているような......。
――聞いているだけでかわいそうになってきました。考えようによっては、ガムザッティも被害者ですね。
渡辺 はい(笑)。悪役じゃなくて、不運な恋をした女性として踊りたいです。強さだけではなく、気持ちの揺れを表現したいですね。
――各々のキャラクターがどう動いてどのようにドラマをつくりあげていくか、舞台の隅々まで目を離せなくなりそうですね。ちなみに、レッスンやリハーサルで多忙な日々だと思いますが、お時間のある時は何をなさっていますか。
渡辺 最近、ジャイロトニックを始めて。とても難しいですが、微妙な重心の取り方とか、呼吸に合わせて上手に筋肉を使う方法を少しずつ学んでいます。
息抜きとしてはお散歩が好き。音楽を聴きながら何も考えずに歩きます。お気に入りはラフマニノフのコンチェルト2番の第2楽章、さみしい感じで始まる曲なんですけど。音楽に体を預けて歩いているうちに、気持ちが澄んでいく気がするんです。
――心身のバランスを上手に取っていらっしゃる様子が浮かんできました。最後に、『ラ・バヤデール』本番に向けて、読者へのメッセージを一言お願いします。
渡辺 『ラ・バヤデール』は、バレエの美しさが詰まった「影の王国」のシーンや、身分や愛憎が絡んだ複雑な人間ドラマが楽しめる、見どころたくさんの作品です。新国立劇場バレエ団の一員として、弱さを隠した美しい王家の娘、そんなガムザッティを演じられるよう、精一杯頑張りますので、ぜひ劇場にお越しくださいませ!
――ありがとうございました!
新国立劇場バレエ団 『ラ・バヤデール』
2019/3/2(土)〜2019/3/10(日)
特設サイト
https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/labayadere/
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