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「反戦」をテーマとする不穏な名作『緑のテーブル』をスターダンサーズ・バレエ団が14年ぶりに再演する!

ワールドレポート/東京

坂口 香野

スターダンサーズ・バレエ団 小山久美総監督にきく

クルト・ヨースの名作『緑のテーブル』を、スターダンサーズ・バレエ団が14年ぶりに再演する。
ヨースはドイツ表現主義ダンスの草分け的存在で、ピナ・バウシュの師としても知られ、この作品はナチス政権誕生直前の1932年にパリで初演された。
舞踊史に残る名作とされながら、上演条件の厳しさから、世界的にも上演回数は決して多くなく、日本ではスターダンサーズ・バレエ団のみがレパートリーとしている。
なぜ、今『緑のテーブル』か? スターダンサーズ・バレエ団の小山久美総監督に聞いた。

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『緑のテーブル』のみどころについて尋ねると、小山総監督は「そうですね......実際みていただくと、きっと驚かれるんじゃないかと思います。幕開きから異様な雰囲気なので」と微笑んだ。
幕が開くと、舞台の真ん中に、緑のテーブルがひとつ。
二台のピアノが奏でる軽やかな音楽に乗って、テーブルを囲んでグロテスクな仮面をつけた黒服の紳士たちが踊りだす。各国を代表する政治家や外交官たちだ。
優雅に挨拶をかわしたかと思うと、口角泡を飛ばして議論をたたかわせ、いつの間にかまた友好的な身振りに戻る。そんな繰り返しの中、しだいに緊迫感が高まっていき、やがて......。
「明確なストーリーはありませんが、各シーンがどういう状況を表しているかは非常にはっきりしています」と小山総監督は語る。たとえば、これは兵士たちと別れを惜しむ家族の様子だとか、"裏切り者"の銃殺だとか、難民となってさまよう人々を描いたシーンだ、といったことはわかりやすい。しかし、そこに込められているのは政治的なメッセージやスローガンではない。戦争が引き起こす様々な状況に投げ込まれたとき、人はどんな「感じ」を味わうのか。栄誉を求めて戦場へ向かう兵士の高揚感や死への恐怖であったり、大切な人を奪われたときの悲しみや怒りであったり......。そういうことが、観客の体にまで伝わるよう、まざまざとダンスで表現される。また、戦争で金儲けを企む"戦争利得者たち"への痛烈な皮肉に満ちていることも、この作品の大きな魅力だろう。

『緑のテーブル』がパリの国際舞踊コンクールで1位を獲得したのは、第一次世界大戦の記憶がまだ新しい1932年のことだ。クルト・ヨースの名声を一挙に高めたこの作品は、欧州・米国各地で公演された。しかし、ヨースはその作品の革新性ゆえに、翌1933年に政権を掌握したナチスに危険視されるようになる。ヨースは当局の逮捕を恐れて英国に亡命し、バレエ団を再編成して公演活動を続けた。ヨース・バレエ団は1936年に日本公演も予定していたが、日独伊防共協定の締結により中止となったという。

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故太刀川瑠璃子代表のもと、スターダンサーズ・バレエ団が『緑のテーブル』日本初演を果たしたのは1977年。ヨースの娘で全作品の責任者であるアンナ・マーカードらを招聘し、作品の隅々まで指導を受けた。以来、『緑のテーブル』は同団の大切なレパートリーとして繰り返し上演されてきた。

2005年以来、14年ぶりに再演を決定した経緯について、小山総監督はこう語る。
「戦後70周年の節目となる2015年にぜひ上演したかったのですが、その時は様々な条件が折り合いませんでした。それと、総監督としての私の迷いもありました。私自身、ダンサーとしてこの作品を踊ってきて、その強烈なインパクトを実感していますし、傑作であることは疑っていません。でも今は、よりわかりやすいもの、より目新しいものが求められる時代なので。1932年初演で、しかも戦争という重いテーマを扱った作品が、今の観客にどう受け止められるのかと考えてしまいました。だから、決断に少し時間がかかったのだと思います」
決断のきっかけとなったのは、英国バーミンガム・ロイヤル・バレエ団名誉監督、スターダンサーズ・バレエ団の芸術顧問であり、小山総監督が個人的にも信頼を寄せるサー・ピーター・ライトの言葉だった。実は、ライトがダンサーとしてのキャリアをスタートさせたのがヨース・バレエ団であり、彼は『緑のテーブル』を踊った経験もあるという。
「ピーターさんは『私はまったく古いとは思わない。むしろ、今こそやるべき作品、ずっと上演し続ける価値のある作品だ』と言ってくださいました。『緑のテーブル』を熟知したピーターさんの言葉をいただけて、『鬼に金棒』じゃないけれど(笑)、自信をもって上演に踏み切ることになったのです。若いダンサーも育ってきていますし、いろいろな条件がすべてそろって実現となりました」。
2月末に、故アンナ・マーカードのアシスタントを務めていたジャネット・ヴォンデルサールが来日して配役決定、振付指導にあたる。その後、3月末の本番まで1か月間、集中して稽古していくこととなる。「技術的にはバレエのテクニックと同時に、自分の体の重さをとらえて踊ることが大事になります。若いダンサーたちがこの作品と出会って何を感じ、どんな反応が出てくるのか、私自身楽しみですね」
テロや紛争をめぐる不安なニュースが続く昨今、『緑のテーブル』が突きつけるものはますます大きくなっているように思われる。そこを意識して上演を決定したわけではないけれど、強い喚起力をもつこの作品の「声」を、ジャンルを超えて広く届けたいと小山総監督は語る。
「二台のピアノの生演奏が始まり照明が灯ります。そして黒服の紳士たちが踊り始めたとき、お客様は何を感じるのか――そこは私たちにも未知の領域ですが、演劇をよくご覧になる方や音楽、美術がお好きな方にも、きっとご満足いただけると思います。ぜひ、劇場にいらしてください」
尚、今回の公演のテーマは「Dance Speaks ダンスは何を語るのか」で、バランシンの『ウェスタン・シンフォニー』と『緑のテーブル』のダブルビルとなる。『ウェスタン・シンフォニー』は文句なしに楽しく、バレエらしい華やかさも味わえる作品。ダンサーの体が発する「声」の豊かさを堪能できる公演となりそうだ。

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Dance Speaks『緑のテーブル』『ウェスタン・シンフォニー』

2019年3月30日(土) 開演 14:00 / 開場 13:15 / 終演予定 15:40
2019年3月31日(日) 開演 14:00 / 開場 13:15 / 終演予定 15:40
(13:40から総監督 小山久美によるプレトークを行います)
会場:東京芸術劇場プレイハウス
(JR・東京メトロ・東武東上線・西武池袋線 池袋駅西口より徒歩2分)
https://www.sdballet.com/performances/1903_dancespeaks/

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