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始動! 東京バレエ団コレオグラフィック・プロジェクト2019 スタジオ・パフォーマンス鑑賞記

ワールドレポート/東京

坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi

「ダンサー出身の振付家」はたくさんいるけれど、ダンス経験なしで振付家になれる人はまずいない。つまり、「動ける体」をもつダンサーに、創作の機会と発表の場が与えられなければ、振付の才能の芽は育ちにくいといえるだろう。
東京バレエ団では、ダンサーたちが創作に取り組む「The Tokyo Ballet Choreographic Project(コレオグラフィック・プロジェクト)」が、2017年から始まっている。このプロジェクトは、「振付家・ダンサー双方の創造力・表現力を刺激し、アーティストとしてのモチベーションを高めてもらいたい」という、芸術監督の斎藤友佳理の強い想いから生まれた。

1月14日(月)、2019年度プロジェクトのキックオフとなるスタジオ・パフォーマンスが、東京バレエ団のAスタジオで行われた。このパフォーマンスは、2019年の「上野の森バレエホリデイ」や「めぐろバレエ祭り」で上演する作品の選考会を兼ねており、観客の投票により「観客賞」が選ばれる。会場設営からチケットのもぎり、アナウンスまですべてダンサーが手がけ、自主公演らしい熱気が漂う中、大スタジオにしつらえられた客席にいっぱいの観客を迎え、投票対象となる5作品と、「特別上演作品」2作品が上演された。

幕開きは、ブラウリオ・アルバレス振付の『Bird』。アルバレスは昨年10月、ハンブルクで催された「ダンス・ガラ コインシデンス」で作品を披露するなど、これまでも意欲的に振付に取り組んでいる。カワセミ、シラサギ、アホウドリ、フクロウと、4羽の「鳥」に扮したダンサーがクラシック・バレエのテクニックを駆使してかろやかに踊った。カワセミ役の金子仁美の歯切れ良い足さばきがすばらしく、つま先からきらきらと光がこぼれるよう。フクロウ役の後藤健太郎の柔らかな首の動きがユーモラスだった。シラサギとアホウドリに、その鳥らしい見せ場がないのがちょっと残念に感じた。

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『Bird』photo/ Kiyonori Hasegawa

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『ひとり』photo/ Kiyonori Hasegawa

岡崎隼也『ひとり』。テーブルといすだけを置いた舞台に、同じ衣裳をつけた三人(沖香菜子、伝田陽美、秋山瑛)がばらばらに踊りだす。映像がブレて二重、三重に見えるように、「ひとり」が三人に分裂しているのだ。椅子を引いて転ばせたり、入れ替わったり......「ブレ」が解消されないまま、三人の動きは激しさを増していくが、「同じスマホをのぞき込む」というさりげない瞬間にフッとひとつにまとまって終わる。言葉にしにくい、つかみどころのない感覚も、ダンスでこそ表現できるのだなあと実感した。

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『夜叉』 photo/ Kiyonori Hasegawa(すべて)

アルバレス振付の『夜叉』は、メキシコ音楽の『ダンソン』を使った(『だんそん』をつかった)5組の男女によるドラマチックな群舞だ。作品の終盤近くでは、ちょうど『ボレロ』のように、他のダンサーたちに半円状に取り巻かれた中川美雪が、そのエネルギーを一身に受けて鬼と化していく。「ベジャール的な手法」を少しずらしつつ、ダンサー全員で楽しんで作り上げている感じがした。中川がついに自分を裏切った男(池本祥真)を取り殺すシーンは圧巻!

木村和夫の『Salut d'Amour』。街の雑音が響く中に、白いワンピース姿の秋山瑛(出演予定の柿崎祐奈が急病のため、急遽のキャスト変更)がひとりで現れる。やがて、『愛の挨拶』のバイオリンの旋律が流れ出し、踊りだす。プリエ、タンデュ......バレエの基本の動きを使って体で遊んでいるような、なめらかな動き。不安の中にあっても、体を整え、心のままに踊ることで、必ず光は見えてくる。シンプルな中にも、そんな思いの感じられる作品だった。

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『Salut d'Amour』

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『Hommage』

杉山優一の『Hommage』。ヴィヴァルディ作曲『四季』の中の、激しい嵐を思わせる曲に振付けた短いソロを、杉山自らが踊った。「月に憧れて」と副題にあるとおり、手の届かないものへの憧れや焦燥を感じさせ、高いジャンプの残像が残った。

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『MIZUKA』

あと2作品は、審査対象とならない特別上演作品。
アルバレスの『MIZUKA』は、上野水香へのオマージュとしてつくったという、上野水香のソロ。『虹の彼方に(Over the Rainbow)』に乗って、上野の完成されたかわいらしさ、ダンサーとしての大きさが、小空間だけにダイレクトに伝わってくる。まるで髪の毛の先まで踊っているようだった。

岡崎の『理由』は、昨年の同プロジェクトで観客賞2位となった作品。4人の女性ダンサーが小さな椅子を手に現れ、思い思いのポーズから踊り始める。最初に流れるのが『ロミオとジュリエット』終幕の音楽なので、4人のジュリエットが、各々の言葉でロミオに「なぜ死んでしまったの?」と、問いかけているようにも見えた。見つからない「理由」を探すのをやめられない気持ち。それがテンポよく展開する4人の動きに、たしかに表現されていた。シルヴィ・ギエムが来日の際、この作品を映像で見て気に入り、もっと振り一つひとつを凝縮した意味を込めるよう、助言してくれたのだという。そのアドバイスを受けての再演である。

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『理由』

最後に、芸術監督の斎藤友佳理があいさつの言葉を述べた。プロジェクトについてのダンサーへの告知は10月24日で、今日の本番を迎えるまで、準備期間は2か月余り。12月には「20世紀の傑作バレエ2」と「ザ・カブキ」という二公演も重なっていたので、正直、スケジュール的に難しいのではという不安があった。でも、このプロジェクトはどうしても続けたいという思いがあったという。
「『とにかく作品を作りたい』という情熱をもつダンサーが何人もいて、忙しいリハーサルの合間を縫ってここまで仕上げてきました。皆が成長していっていると肌で感じています。振付をするにはダンサーとしてある程度極めている必要があり、しかも創作への貪欲さがないと作品はつくれません。ダンサーが主体となって進めることで、さらにこのプロジェクトが発展していくのではないかと思います」

終演後には、作者・出演者と観客の懇親会が設けられていた。観客がダンス作品の作者に直接感想を伝えたり、疑問をぶつけたりできる機会はなかなかない。「最後はハッピーエンドで終わるのかなと予想していたんですけど......」「いや、それも考えたけれど、何通りもの結末をダンサーとやってみた結果ああなったんです」などと、作者に創作の過程について興味深い話を聞くことができ、とても楽しかった。

作者と観客の間が近く、熱く語り合える場があることも、新しい作品が生まれる土壌として、とても大切なのではないだろうか。観客としても新作への興味が深まるし、見る眼も肥えそうだし......。

それにしても、観客賞の発表が楽しみだ。

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photo/ Kiyonori Hasegawa(すべて)

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