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ダンスという強烈な「呪い」、やはり、ひとりでは見ないほうが......。ルカ・グァダニーノ監督による再構築版『サスペリア』がまもなく公開!

ワールドレポート/東京

坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi

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「決してひとりでは見ないでください」
1977年、このキャッチコピーで一世を風靡した、ダリオ・アルジェント監督の『サスペリア』。ショッキングで忘れがたい美しさをもつホラーの名作として『エクソシスト』『オーメン』などと並び称されてきた。前作『君の名前で僕を呼んで』で高い評価を受けたルカ・グァダニーノ監督によるリメイク版『サスペリア』が、まもなく公開される。
グァダニーノ監督は13歳の頃、テレビでオリジナル版を見てその魅力にとりつかれ、「いつか自分の『サスペリア』を作る」と決意したという。1977年当時、小学生だった私はテレビから予告編が流れれば即座に目を背けていたので、この映画の舞台がドイツのバレエ学校だということは知らなかった。(それでも、じわじわと不安をあおるゴブリンの音楽や、鮮烈な赤や緑の色彩はいやでも残った)。オリジナル版のファンであれば、バラ色の、おとぎ話を連想させるバレエ学校のセットを記憶されていることだろう。
今回のリメイク版の舞台はオリジナル版の公開時と同じ1977年で、東西に分断されていたベルリン。ただしクラシック・バレエの学校ではなく、コンテンポラリー・ダンスのカンパニーに変更されている。オリジナル以上にダンスシーンが重要な役割を担い、振付はダミアン・ジャレが務めるという。ジャレは、シディ・ラルビ・シェルカウイとの共同制作による『バベル』が日本でも上演され話題となるなど、世界的に活躍する振付家だ。音楽はレディオヘッドのトム・ヨーク。チラシには、またしても「決してひとりでは見ないでください」のキャッチコピーが......。相当の覚悟を決めて試写を見に行った。

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降りしきる雨の中、ボストンからやってきたダンサー志望のスージー・バニオン(ダコタ・ジョンソン)は、ベルリンを拠点とする「マルコス・ダンスカンパニー」の門戸を叩く。くすんだ街並み、壁に叩きつけられた落書き――画面には不穏な空気が漲る。スージーは最初のオーディションで、カンパニーを率いるカリスマ振付家、マダム・ブラン(ティルダ・スウィントン)の目に留まり、入団を許される。一方、カンパニー内ではダンサーの謎の失踪が続いている。スージーはブランの元で才能を開花させ、失踪したダンサーに代わって間近に迫った公演の主役を務めることとなるが、同時にカンパニーに巣食う得体の知れない闇に近づいていく。
マルコス・ダンスカンパニーは女性だけの舞踊団で、寝食を共にしながら稽古に励んでいる。ダンサー同士の家族のような親密さ、公演前の異様に張りつめた空気、指導陣の「あの子は使える」「ダメよ」といった断片的な会話......現実のバレエ団などでもありそうな描写だが、この映画ではそれが「恐怖」と直結する。

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グァダニーノ監督は振付のジャレに、ダンスを魔力や魔女の「言葉」を表現するものにしたいと伝えたという。たしかに、バレエやダンスのレッスン中に、指導者と自分の間に働く、少し不思議な力を感じたことのある人も多いのではないだろうか。指導者の動きをニュアンスまで再現し、踊る感覚を自分の体に取り入れようと努力するうち、突然、昨日までできなかったことができるようになる。動きを「体で受け入れる」ことで「体が変わる」。教師と生徒、あるいは振付家とダンサーの間に流れる、目に見えない何か。この映画では、その「魔力」がひとつの鍵となっている。スウィントン演じるマダム・ブランは、ダンサーに寄り添い、その心の深くまで入り込んで最大限の力を発揮させる優れた教師でもあり、とても魅力的だ。ダコタ・ジョンソン演じる新人ダンサーのスージーは、マダム・ブランに憧れつつも、その振付に異議を唱えることもあり、決して受け身のままではいないタフな女性として描かれている。
尚、ジャレは、マリー・ヴィグマンやピナ・バウシュに敬意を表してダンスシーンを振付けたと語っている。そのためだろうか。マダム・ブランの佇まいがピナ・バウシュにそっくりだと感じるのは、私だけではないと思う。

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グァダニーノ監督は、本作の時代を「1977年」としたことについて「当時のベルリンは怒りと暴力に満ち溢れていた」と語る。同年10月のドイツ赤軍によるハイジャック事件の残酷なニュース映像が、映画中にも使用されている。「美しいもの、陽気なものはすでに去った。今はあらゆる美しさを破壊しなければならないわ」というマダム・ブランの台詞が胸に刺さる。美しいものを誰よりも愛しつつ壊し、人の痛みを誰よりも理解しつつ傷つけざるをえない――この作品の根本には、そんな矛盾や悲しみがあるような気がした。

長々と書いてしまったが、とにかく怖かった。ショッキングなシーンやグロ表現に耐性のないかたには絶対おすすめできない。終盤のダンスシーンは、狂気と暴力の大盤振る舞いだ。でも、力のこもったアート作品であることは間違いない。
エンドロールが終わり、試写室から出るとき、同じ恐怖を味わった観客が周りにいることがとても心強く感じられた。できれば、「怖かったね」「あのシーンはどういう意味だと思う?」などと語りあえる友だちと見ればさらに良いと思う。その意味ではやはり......「決してひとりでは見ないでください」。

『サスペリア』

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監督:ルカ・グァダニーノ 脚本:デビッド・カイガニック
音楽:トム・ヨーク(レディオヘッド)
出演:ダコタ・ジョンソン ティルダ・スウィントン ミア・ゴス ルッツ・エバースドルフ ジェシカ・ハーパー クロエ・グレース・モレッツ

2018年/イタリア・アメリカ合作/152分/R15+
配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/suspiria/

1/25(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー

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