木村優里と渡邊峻郁による素晴らしいグラン・パ・ド・ドゥ、イーグリング版『くるみ割り人形』

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

新国立劇場バレエ団

『くるみ割り人形』ウエイン・イーグリング:振付

2017年11月に初演した新国立劇場バレエのウエイン・イーグリング振付『くるみ割り人形』が、今年も上演された。初演は小野絢子、福岡雄大のペアで観たので、今回は木村優里(クララ・こんぺい糖の精)と渡邊峻郁(ドロッセルマイヤーの甥、くるみ割り人形、王子)のコンビで観ることにした。ドロッセルマイヤーは貝川鐵夫、ねずみの王様は井澤駿、クララ(子供)は秦悠里愛というキャストだった。
プロローグはクリスマス・イブのパーティに参加するクララの髪を整えているところ。外景にスケートをする人々などを配している。パーティの人形の踊りのシーンはねずみ風の仮面を着けた三人の踊りとなっていて、ねずみの王国とドロッセルマイヤーとの戦いを背景を示す趣向を巡らせている。ただ、ドロッセルマイヤーが披露する手品はちょっと多すぎるのではないかなどと思った。パーティでは子供たちのダンスと大人のダンスがほど良く配置されていて、子供のクララも忙しかったと思うが、頑張ってよく踊っていた。
クララは夢の中で大人の女性になり、木村優里に変わる。ツリーが巨大化するシーンなど、ここで映像をあまり強調せず比較的控え目に使って、返って効果をあげていた。
クララがベッドに入る前にシュタルバウム夫人(関晶帆)がくるみ割り人形を、おもちゃをしまってある戸棚に納めた。クララの夢では、そこからおもちゃの兵隊が出動し、士官はあのドロッセルマイヤーの甥みたい。激戦が始まり大立ち回りとなった。このねずみの軍とおもちゃの兵隊の戦いは、なかなか音楽性があった。
なんとかやっつけた、と思ったが、ねずみたちはシツコイ。雪の国までクララとくるみ割り人形を大勢で追いかけてきた。ようやくねずみ軍を逃れて、ドロッセルマイヤーの操る気球に乗って旅立つが、その気球にもねずみの王様がぶら下がっていた。

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木村優里、渡邊峻郁 撮影/鹿摩隆司(すべて)

第二幕では、お菓子の国のお城の前の広場まで戦いが続く。くるみ割り人形がねずみの王様をやっつける。すると一瞬、くるみ割り人形は王子は元の顔に戻る。しかし、ねずみは本当にシツコイ。
くるみ割り人形とクララはねずみの王様と戦い、今度こそやっとやっつける、するとくるみ割り人形は、美しい王子の姿に変身して、クララと喜びのパ・ド・ドゥを踊る。ここでは井澤駿が扮したねずみの王様の活躍ぶりも讃えておきたい。
ここはお菓子の国と言っても、大輪の花が咲き誇りワルツが流れる花の園。だからかデヴェルティスマンの最後は「葦笛」ではなく、「蝶々」で奥田花純が踊った。他のデヴェルティスマンも技巧をこらしていたが、本来の楽しさを超えるものは感じられなかった。
木村優里とこんぺい糖の精と渡邊峻郁の王子のグラン・パ・ド・ドゥのは素晴らしかった。木村は主役を踊ることが多くなり、余裕を持って踊っている。当初感じられた緊張感からくるぎこちなさはすっかり消え、堂々とした踊りだった。これからは木村の動きにさらにコクというか、味というか、まろやかさというか、深みがさらに加わってくるだろう。それが本当に楽しみである。渡邉峻郁も良かった、彼らしいソフトな着地と雰囲気のある動きが素敵な舞台を作った。良いコンビである。さらにパートナーシップも育んでもらいたい。
ラストシーンでは、クララ、フリッツ(沼部太亮)とドロッセルマイヤーとその甥の別れがあり、その背景に気球を浮かべて、このファタジィを締めくくった。
(2018年12月21日 新国立劇場 オペラパレス)

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木村優里、渡邊峻郁

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渡邊峻郁

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木村優里

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