技法やスタイルの異なる作品を見事に踊り分けたダンサーたちに感心、東京バレエ団<20世紀の傑作バレエ 2>

ワールドレポート/東京

佐々木 三重子 Text by Mieko Sasaki

東京バレエ団

〈20世紀の傑作バレエ 2〉『スプリング・アンド・フォール』ジョン・ノイマイヤー:振付、『イン・ザ・ナイト』ジェローム・ロビンズ:振付、『小さな死』イリ・キリアン:振付、『ボレロ』モーリス・ベジャール:振付

古典名作だけでなく優れた現代作品の上演にも定評のある東京バレエ団が、20世紀後半にバレエの世界を刷新した振付家たちの作品による〈20世紀の傑作バレエ 2〉と題した公演を行った。上演されたのは、2017年にレパートリーに加えたばかりのジェローム・ロビンズの『イン・ザ・ナイト』とイリ・キリアンの『小さな死』のほか、2000年にバレエ団として初演したジョン・ノイマイヤーの『スプリング・アンド・フォール』と、今やバレエ団の"看板演目"になったモーリス・ベジャールの『ボレロ』。表現のスタイルも語法も全く異なる、極めて独創的な4作品が並んだ。

オープニングは『スプリング・アンド・フォール』(1991年初演)。ノイマイヤーがドヴォルザークの「弦楽セレナーデ」に振付けた、7人の女性ダンサーと10人の男性ダンサーによる抽象的な作品である。英語の原題には「春と秋」「跳躍と落下」の意味もある。冒頭、静止のポーズを取っていた男性たちが柄本弾を置いて去ると、残された柄本がゆるやかに身体を動かし始め、パフォーマンスがスタートした。柄本はソロのパートでも、女性陣のメインを務めた川島麻実子と組んでも、常にパワーのある凜とした踊りで全体を牽引していた。作品には男女それぞれの群舞があれば、男女がペアになってしっとりと抒情を紡ぐ場面もあり、また男性同士が荒々しくぶつかり合うなど、曲調やテンポに合わせて様々な情景が繰り広げられた。墨絵を思わせるようなモノクロームの背景が、場面に応じて緑や赤味を帯びるなど色調を変えていくのも幻想的だった。自然の移ろいに人生の有り様を重ね合わせたような作品で、詩情豊かな一編の詩になっていた。

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© Kiyonori Hasegawa

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© Kiyonori Hasegawa

ロビンズの『イン・ザ・ナイト』(1970年初演)は、舞台上でピアニスト(松木慶子)が弾くショパンの4曲のノクターンにのせて、3組のカップルが織り成すそれぞれの情景をスケッチした小粋な作品。1曲目のカップルは沖香菜子と秋元康臣。星空をバックに、互いの恋心を確かめ高揚させていく若い男女を伸びやかな身体性を活かして瑞々しく演じた。2曲目は川島麻実子とブラウリオ・アルバレス。シャンデリアが吊されたステージに民族調の衣裳で現われた二人は大人のムードを漂わせ、すばやいリフトを交えて淀みなく流麗にステップを紡いだ。星空のバックに戻った3曲目は上野水香と柄本弾。これまでのカップルと同様に身体を絡めたり、リフトしたりしたが、総じて扱いが荒っぽく、加えて相手から顔をそむけたり反発したりと、亀裂が生じた男女のドラマを演じてみせた。4曲目ではこの3組のカップルが登場し、交錯して踊ったり、礼儀正しく挨拶を交わしたりした後、男性が女性をリフトしたまま去る。余韻を残した終り方だった。初演時で観たキャストと同じだったが、3組とも息の合った、よりこなれた演技が楽しめた。

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© Kiyonori Hasegawa

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© Kiyonori Hasegawa

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© Kiyonori Hasegawa

『小さな死』(1991年初演)は、キリアンによれば「詩的でありながら、性的な行為がもたらすエクスタシーを風変わりなほどに意味ありげに描き出す作品」という。ちなみに、フランス語の原題は「オルガスムス」を示唆するそうだ。実際のところ、男女6人ずつのダンサーが、モーツァルトのピアノ協奏曲第23番と21番の緩徐楽章にのせて繰り広げたダンスは、何とも危なげな刺激に満ちていた。男性たちは男性性の象徴のようなフェンシングの剣を床に転がしてもてあそんだり、ステージを覆った布が翻ると中から女性たちが飛び出してきたり、その女性たちは頭や手足のないトルソーを動かして踊ったりと、場面はめまぐるしく変転し続けた。それにしても、男性たちが仰向け寝そべる女性たちに覆い被さるように組むなど、男女が一体化しての緊張感あふれるパフォーマンスからは鮮烈なエロスが匂い立ったが、同時にある種の厳粛な儀式を思わせもした。高度の身体能力を駆使しなければ踊りこなせないキリアンの振りを、ダンサーたちが爽快にクリアしていたのが頼もしい。

最後は、ベジャールがラヴェルの曲に振付けた傑作中の傑作『ボレロ』(1961年初演)。"メロディ"を務めたのは上野水香。ベジャールから直接指導を受け、何度も踊ってきた作品である。滑り出しの身体を上下にバウンドさせる動きは、いつもより淡々としているようにみえたが、粛々とリズムを刻みながら高揚する音楽に煽られるように、上野が踏み続けるステップは鋭さを増していき、音楽が咆哮の頂点に達する瞬間、"リズム"の男性群に飲み込まれるように円卓に崩れた。上野は、リズムの男性群舞を統率しようとか、リズムに拮抗しようとはせず、今回はむしろリズムとの協調性が強く感じられた。それもあって、メロディを支える男性群舞の役割は決して小さくないことを改めて感じもした。
以上、4人の傑出した振付家による独創的な作品を堪能させた〈20世紀の傑作バレエ 2〉だが、ひとつの公演で、ここまで技法やスタイルの異なる作品を見事に踊り分けたダンサーたちの力量にも驚かされた。
(2018年11月30日 新国立劇場 中劇場)

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© Kiyonori Hasegawa

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