プロコフィエフの名曲と共鳴する振付・演出、愛の奇蹟を見事に表した『シンデレラ』

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

キエフ・バレエ ータラス・シェフチェンコ記念ウクライナ国立バレエー

『シンデレラ』ヴィクトル・リトヴィノフ:振付・演出

キエフ・バレエータラス・シェフチェンコ記念ウクライナ国立バレエーが来日し、『シンデレラ』『くるみ割り人形』『白鳥の湖』という3作の全幕バレエを全国21公演を行なった。中でも『シンデレラ』は、1990年と92年にエレーナ・フィリピエワが主演して以来。26年ぶりの上演となった。そしてキエフ・バレエを代表するプリマ・バレリーナ、フィリピエワは、舞踊生活30周年を迎え、今回公演では仙女役を踊った。私はシンデレラをアンナ・ムロムツェワ、王子をデニス・ニェダクというキャストで観た。オレクシィ・バクラン指揮、ウクライナ国立歌劇場管弦楽団の演奏である。

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「シンデレラ」アンナ・ムロムツェワ

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「シンデレラ」アンナ・ムロムツェワ

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「シンデレラ」アンナ・ムロムツェワ

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「シンデレラ」デニス・ニェダク

ヴィクトル・リトヴィノフ振付・演出による『シンデレラ』は、セルゲイ・プロコフィエフ作曲の著名な音楽に忠実に振付けることを意図した舞台だった。
基本的に仙女とシンデレラとは他の登場人物とは異なる存在であり、仙女の姿はシンデレラ以外には見えない。二人以外の人物は、概ね音楽の調子に合わせて戯画化されている。王子もコーヒーカップほどの小さな王冠を着けて踊るし、王様の冠はボール紙に金色の紙を貼り付けたよう。大臣はピンクとブルーのヒラヒラの衣装を着け、双生児のように同じ動きを繰り返す。大きな騎士と小さい騎士はナポレオンとウェリントンになぞらえているのだろう。ステップマザーと意地悪な姉たちもなかなか珍妙な格好だが、目に余るほどの悪意のある意地悪はなく、自分たちをアピールするのに必死だ。三幕のスペインの踊りも男が中心で、周りの女性がベリーダンス風の踊りをみせた東洋の踊りも、どこかをずらして表現されていてシリアスには踊られない。
こうした設定により、仙女に導かれて、シンデレラと王子が真実を愛を見つけるまでを丁寧に描いている。
宮廷で美しく着飾ったシンデレラと王子の出会いのパ・ド・ドゥは、華麗でなかなか見応えがあった。そしてこの演目の最も美しいワルツへと盛り上がるのだが、運命の時を告げる鐘がなり始めシンデレラは、慌てて家へ帰る。この時、美しいドレスはみすぼらしいいつもの服に変わリ、逃げ道を必死で探すシンデレラは、何回か王子とすれ違うのだが気付かれない。この慌ただしい中のさりげないシーンが、終幕のドラマの伏線となって効果を発揮している。
王子は片方のガラスの靴(ガラスの飾りのついたトウシューズ)を残して消えた愛する女性を、もう一方のガラスの靴を頼りに世界中を駆け巡って懸命に探す。そしてシンデレラの家に至った時、なんとも言えない不思議な気持ちにとらえられる。しかし、シンデレラの家に来た王子は、貧しい衣装のシンデレラにすぐには気付かない。王子が気付いてくれなければ、シンデレラは自分から名乗り出ることはないだろう。しかし、もちろん、愛の霊感がハッピーエンドをもたらした。
シンデレラを踊ったアンナ・ムロムツェワは美しく愛らしい。素敵なダンサーである。主役のみならず、出演者は振付家の意図するところをよく理解して踊った。
(2018年12月28日 東京文化会館)

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「シンデレラ」

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「シンデレラ」デニス・ニェダク

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「シンデレラ」エレーナ・フィリピエワ

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「シンデレラ」

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「シンデレラ」

Photo:瀬戸秀美(上段写真3点と下段写真5点)
写真提供:光藍社(上段写真1点)

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