永久メイの踊りの美しい流れに思わず感じ入ってしまった『白鳥の湖』

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

マリインスキー・バレエ

『白鳥の湖』マリウス・プティパ、レフ・イワノフ:振付、コンスタンチン・セルゲイエフ:改訂振付・舞台監督

マリインスキー・バレエの『白鳥の湖』は、プティパ、イワノフ版に基づいて1950年に初演されたものが受け継がれている。おそらくこのヴァージョンが一つのスタンダードと目されて、世界中で多く上演されてきたのではないだろうか。日本の新国立劇場バレエ団も開設当初はこのヴァージョンを上演していた。
オデット/オディールはエカテリーナ・コンダウーロワ、ジークフリート王子はティムール・アスケロフ、道化はウラディスラフ・シュマコフ、ロットバルトはローマン・べリャコフというキャストだった。ガヴリエル・ハイネ指揮によるマリインスキー管弦楽団の演奏。
セルゲイエフ版は宮廷の場面には道化が登場し狂言回しとして踊り、音楽と舞台を活性化させるような役割りを果たしている。そして白鳥たちの存在を簡略化せず、しっかりと描いている。

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エカテリーナ・コンダウーロワ、ティムール・アスケロフ 撮影:瀬戸秀美(すべて)

2017年に日本人バレエダンサーとして2番目にマリインスキー・バレエの団員となった(初めてマリインスキー・バレエ団に入団した日本人は2013年の石井久美子)永久メイが王子の友人たちの一人として、ヤナ・セーリナ、フィリップ・スチョービンとともに踊った。永久メイは、衣装が大きすぎるのではないかと心配になるくらい細い。細身で長身の多いマリインスキー・バレエのダンサーたちの中でも一際、細い。けれど落ち着いて堂々と踊っていた。動きの流れが実に美しい。プロのダンサーが踊っていてもパとパの間にはどうしても見えない間を感じてしまうことがあるものだが、永久メイの場合は、動きが滑らかで余韻を感じさせるからか、その見えない間があまり感じられない。流れというかラインというか一つのムーヴメントとして踊りを見ることができる。パ・ド・トロワの後、王子と踊り、道化から誘われるが「王子と踊った気分を壊すから」とでも言いたげに断って、道化に追いかけられながら袖に消えるのだが、なんだか観客に見えない舞台裏では、道化に捕まって無理矢理連れ戻されてくるのではないか、とちょっと心許なくなった。そのくらい自然に感じられた演舞だった。
エカテリーナ・コンダウーロワも美しかった。森の中の湖のシーンではやや控え目に感じるくらいの表現だったが、それが囚われの身の悲しみの表現をより深めていた。オディールに扮しては、冷ややかな微笑を絶やさずジークフリートを深い眼差しで見つめ、心を痺れさせて思うがままに操った。ティムール・アスケロフのジークフリートは、オディールに欺かれて、人生で初めて直面した絶望に恐れおののく様を上手く表現していた。深い表現ができるダンサーではないだろうか。また、第2幕のディヴェルティスマンでは、マズルカが豪華絢爛に踊られて、さすがはマリインスキー・バレエ団と感じられた。そして、コンダウーロワもアスケロフも最後のシーンまでしっかりと踊りきり、スタンディング・オベーションによる喝采を受けた。
(2018年12月7日 東京文化会館)

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永久メイ

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エカテリーナ・コンダウーロワ、ティムール・アスケロフ

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