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米沢唯と渡邉峻郁が踊った二つのパ・ド・ドゥが印象に残った、新国立劇場バレエ団の『不思議の国のアリス』

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

新国立劇場バレエ団

『不思議の国のアリス』クリストファー・ウィールドン:振付

バレエ『不思議の国のアリス』は2011年にルイス・キャロルの同名の小説(1865年)に基づいて、クリストファー・ウィールドンが英国ロイヤル・バレエ団に振付けたもので、作曲はジョビー・タルボット、台本はニコラス・ライトだった。このバレエは少女の夢を描いている点では『くるみ割り人形』と共通している。チャイコフスキー/プティパの『くるみ割り人形は』、E.T.A.ホフマンの『くるみ割り人形とねずみの王様』を原作としているが、バレエを作るために原作から音楽的イメージを抽出して創作されている(台本はプティパ)。タルボット/ウィールドンの『不思議の国のアリス』は、原作をバレエ的に発展させて舞台が作られていると思う。『くるみ割り人形』はクリスマスイブのパーティが舞台だが、『不思議の国のアリス』は夏の昼のガーデンパーティである。あるいは、甘いジャムとともに嗜むロシアン・ティーと緑陰で楽しむイギリス風ミルク・ティー、といった違いと感じられなくもない。
ともあれ、英国ロイヤル・バレエのダンサーが踊った『不思議の国のアリス』は大ヒットし、新国立劇場バレエ団でも上演することとなり、ここでも大入りだったと聞く。

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撮影/鹿摩隆司(すべて)

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『不思議の国のアリス』は、地中に落ち込んだ少女アリスの行く手に、お馴染みの様々な奇妙なキャラクターが登場する幻想的冒険の物語だ。じつに様々なキャラクターがパレードのように次々と登場し観客を飽きさせない。そういえばディヴィッド・ビントレーの『アラジン』もまた、主役は男性だったが、同様の展開だった。これはイギリスで盛んだった舞台芸術のひとつ、ミュージックホールの影響を受けスタイルではないだろうか。そして、動物を擬人化したキャラクーもイギリス・バレエの得意技のひとつ。『ビアトリス・ポッターと仲間たち』を始め、多くの擬人化した傑作キャラクターを生んでいる。

『不思議の国のアリス』の一番の見せ場は、ハートの女王が大活躍する第3幕だろう。ただ、これは初演の時、英国ロイヤル・バレエのプリンシパル、ジェナイダ・ヤノウスキーのコヴェントガーデン・ロイヤル・オペラハウスを大いに沸かせた怪演がある。これにに勝る演舞は、並大抵のことではできないだろうと思っていたが、オーストラリア・バレエからゲスト出演したエイミー・ハリスは見事、彼女らしいハートの女王を見せてくれた。さすがに今年プリンシパルに昇格したばかりで生きが良かった。本島美和と今回抜擢された益田裕子と三人のハートの女王を見比べて見たかった気もする。ここでは、際限なく威張り散らす女王とうちひしがれた王の関係だけでなく、ミュージックホールの観客がニヤリと笑って喜びそうなギャグも満載だった。ピンクフラミンゴのクロケットって、一体何なの?と思いたくもなったし、これもまた、英国の舞台芸術の伝統の一端かもしれないが。

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エイミー・ハリス 撮影/鹿摩隆司(すべて)

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米沢唯、渡邉峻郁

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初演を踊ったスティーブン・マックレーにインタビューした際に聞いたのだが、とにかく、ダンサーは超忙しくてたいへんだそうだ。小道具などの準備と確認、様々なダンス以外の表現に次々と対応しなければならず、正直、ダンスまで手が回らない、とまで言っていたくらいである。
しかし、そうした厳しい条件の中で、アリスを踊った米沢唯は素晴らしかった。最後までアリス的な少女らしさの表現を失わず、踊り通した。特に3幕でハートのジャックに扮した渡邊峻郁と踊った二つのパ・ド・ドゥはとても良かった。米沢は観客に登場人物の気持ちを豊かに伝えることのできるダンサーとして、確実に成長してきている。そしてオーストラリア・バレエのシニア・アーティスト、ジャレッド・マドゥンがマッドハッターに扮して踊ったタップが見事、見応え十分の踊りだった。奥村康祐のルイス・キャロルは、なんかおっとりとしていて味があった。適役だったのではないだろうか。
(2018年11月2日 新国立劇場 オペラパレス)

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米沢唯、奥村康祐 撮影/鹿摩隆司

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撮影/鹿摩隆司(すべて)

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