K バレエ カンパニーとBunkamuraがフランチャイズ契約を結ぶ、熊川哲也芸術監督と中野哲夫社長が記者会見で発表

ワールドレポート/東京

佐々木 三重子 Text by Mieko Sasaki

複合文化施設「Bunkamura」運営する東急文化村は、2018年11月1日付けで、熊川哲也率いるKバレエ カンパニーと5年間のフランチャイズ契約を締結した。この契約締結について11月26日、東急文化村代表取締役社長・中野哲夫と、Kバレエ芸術監督・熊川哲也が記者懇談会を開いた。契約の概要は、東急文化村はKバレエのオーチャードホールでの継続的な公演を支援し、両者は芸術文化の活動地盤の強化・劇場芸術振興の発展のため協力するというもの。Kバレエの都内での公演は、原則としてオーチャードホールで行われることになる。

中野社長は、来年はBunkamuraが30歳、Kバレエが20歳を迎える記念の年であると前置きし、「Bunkamuraがオープンした1989年はバブル景気の時代ということもあり、当初は"贅沢品"を提供してきました。けれど渋谷という街が大きく変わろうとしている今、これまでと同じでいてよいのかと考え、新しいことにチャレンジしなければ」と感じたという。そこで、オーチャードホール開場の時に東京フィルハーモニー交響楽団とフランチャイズ契約を結んだことを思い起こし、新たにホールと関係の深いKバレエとの協同を考えたそうだ。「観客はホールカレンダーでKバレエの公演を把握でき、Kバレエも公演が決まれば稽古などの予定が立てやすくなり、ホール側も編成の計画が立てやすくなります」とフランチャイズ契約のメリットを強調。「『バレエ界はあそこで転換期を迎えた』といわれるくらい、素晴らしい文化をKバレエと共に創っていきたい」と力強く語った。

一方の熊川芸術監督は、ローザンヌ国際バレエコンクールで金賞を受賞したのはオーチャードホール開場と同じ1989年で、英国ロイヤル・バレエ団に在籍中に何度もここで踊り、1999年のホール開場10周年記念企画でローラン・プティ振付の『ボレロ』を踊り、Kバレエの多くの作品をここで発表してきたが、さらに2012年にはBunkamuraオーチャードホールの芸術監督に就任している。縁の深いホールだけに、「オーチャードホールという劇場に支えられてきた人生なんだなと思います。Bunkamuraと契約を結ぶことでバレエ団として箔がつくし、(余計なことを)心配せずに制作に向かえるので、制作への余力ができます。良い作品を生んで、大好きな劇場のブランド力を高めることに繫がればと思います。それに、日本の民間のバレエ団の中で、"ホーム"を持っているのはKバレエだけでしょう。誇りに思います」と胸を張った。

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劇場のある渋谷には日本のハイカルチャーだけでなく、サブカルチャーやポップカルチャーも混在していることに触れ、「ハイカルチャーとサブカルチャーを融合させ、両立できれば素晴らしい街になる。サブカルチャーを発信する若い人たちにハイカルチャーにも興味を持ってもらい、互いに共存・共栄してゆければと思う」と語り、また、海外公演などの文化の国際交流については、「劇場から作品を持って海外に出て行くというのはもう古い。そのような負のイメージを打開して、むしろ、外国から(この作品を見たいという)観光客を劇場に集めるようにするのが真の国際化ではないかと思う」と大胆な発言もした。

フランチャイズ契約後のビッグ・プロジェクトは、2019年9月に初演予定の『マダム・バタフライ』。熊川は、「ミラノ・スカラ座でオペラの〈蝶々夫人〉を見たとき、序曲を聴いただけで妄想が始まってしまった。でも、創作のスイッチのオン・オフが激しくて...」と苦笑い。「日米関係を見せようかなと思うので、ピンカートンのアメリカ時代を第1幕に入れて、日本に来て受けたカルチャーショックも描こうかと」などと構想を練っている。

契約後のKバレエによるオーチャードホールでの最初の公演は、12月6〜9日の熊川版『くるみ割り人形』で、年明けの1月31日〜2月3日の熊川版『ベートーヴェン第九』とプティ振付『アルルの女:』に続くが、熊川はこの『第九』に久々に出演するという。「久し振りに舞台に立ちますが、失礼な言い方かもしれませんが、これは観客のためでも、自分のためでもなく、カンパニーにいる若い子たちのためです」と言い切った。「僕と舞台をシェアしたことのない人が多くなりましたが、自分と同じ空気を吸うことはとても大事なことだし、僕自身、背中を見て育ったダンサーと一緒にカーテンコールできる喜びを味わってきましたから」。この話から、世代交代は着実に進んでいることがうかがえる。また、来年4月に20周年を迎えるKバレエの運営については、新たに舞踊監督を置くつもりという。「芸術監督は自分が続けますが、現場は譲って、僕は演出や創作を続けていきたい」。創作への情熱は尽きることがなさそうだ。

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