勅使川原三郎と佐東利穂子が『月に憑かれたピエロ』を踊る!

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

勅使川原三郎の近年の活躍ぶりは、誠に目覚しい。その凄まじい踊るエネルギーにはただただ圧倒されるばかりだ。今年に限って見ても、本拠地のカラス・アパタラスの [アップデイトダンスシリーズ] で、『ピグマリオン・人形愛』『青い花』『白痴』『火傷の季節』『幻 ファンタスム』『読書』『特性のない男』12月13日からは『黒旗 中原中也』。
[音楽家との共演] は、笙の宮田まゆみと『調べ』(シアターX)、リヨン国立管弦楽団とベルリオーズ『幻想交響曲』(リヨンダンスビエンナーレ)。[オペラ] は『ピグマリオン』(スウェーデン、ドロットニングホルム宮廷劇場)。海外公演は、『Tristan and Isolde』(フランスのメッツ、モスクワ)、『The Idiot(白痴)』(パリ・シャイヨ劇場、イタリア、フェラーラ)『SHE』(ミラノ)、[インスタレーション] は『Absolute Absence』(フランス)、『Broken Light』(ベルギー)。振付作品は『Transparent Monster』(ローレーヌ・バレエ団)、『One thousand years after』(キューバ)。
となっており、この間にもアパタラスでダンス映像の上映会やワークショップを行っており、その目覚ましい活躍ぶりは、日本のダンス界では際立っている。
こうした活発な創作活動の中、12月1日に始まる次回公演では、アルバン・ベルク曲『ロスト・イン・ダンス-抒情組曲』とアーノルド・シェーンベルク曲、マリアンヌ・プスール歌唱『月に憑かれたピエロ』を、勅使川原三郎と佐東利穂子が東京芸術劇場で踊る。

photo by Akihito Abe

photo by Akihito Abe

『月に憑かれたピエロ』は、この公演のためにベルギーから招かれたマリアンヌ・プスールの「美しく恐れさえも抱かせる強烈な歌唱」と、勅使川原三郎と佐東利穂子のダンスにより「超現実的な世界」が顕れる「劇的ダンス」。そして『ロスト・イン・ダンス―抒情組曲』は、ベルクの抒情組曲とともに踊る「純粋ダンス」で、「ダンスに憑かれた佐東利穂子」に捧げるられるオマージュである、と解説されている。
とすると休憩を挟んで踊られるこの公演は、勅使川原三郎による「劇的ダンス」と「純粋ダンス」が一つの劇場空間に生成することとなる。これは観客にとって注目すべきこと、稀有の劇場体験となるだろう。

(C)Bengt Wanselius

© Bengt Wanselius

シェーンベルクといえば、20世紀初頭から1950年にかけて活躍し、ストラヴィンスキーやラヴェルにも影響を与え、ベルクもシェーンベルクに師事している。シェーンベルクの代表作であり、20世紀音楽の一つのエポックとも言える曲『月に憑かれたピエロ』には、アメリカ人だがヨーロッパで評価の高かったグレン・テトリーが1962年に振付けたダンスがある。ヌレエフも踊ったことがあるモダンダンスの作品で、パイプで組んだセットを使用していたが、ピエロの哀しみが独特の表現で表われていた、とかすかに記憶する。
勅使川原は「月に憑かれたピエロ」という曲についてある取材の中で、「(それまでの曲とは異なり)、人間の身体がもつ生理的で感覚的な無軌道な展開をしているように聴こえます。同時にまるで人体の組織が綿密に作動しあっているように厳密に構成された楽曲」と語っている。また、マリアンヌ・プスールの歌唱については、「曲の音調の微妙な変化を奇妙な言葉による詩世界を魔術的な声によって描き出し、彼女の身体性が可能にする特別な才能だ」という。私にはこれが、20世紀の音楽を牽引した楽曲を21世紀の只中で活動する創作家が捉えている意識、という風に感じられるのである。
勅使川原と佐東がこの曲を踊った、2011年の「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」の際の記録映像から構成された動画が公開されている。
https://www.youtube.com/watch?v=8qsi99-hA3w
ここの歌唱はマリアンヌ・プスールだが、演奏家は今回の東京芸術劇場公演とは違う。そしてこれはコンサート形式で行われたものだが、今回の舞台は、勅使川原によるセットが組まれて踊られる。
ダンスの繊細極まる空間を作り出すことにかけては天才的な勅使川原が、どんな空間を作り、「月とダンスにとり憑かれた生と死」をどのように踊るのか。勅使川原三郎と佐東利穂子の身体が音楽と共振して、どんな世界が顕現してくるのか、大きな期待を抱いている。

(C)Sakae Oguma

© Sakae Oguma

「月に憑かれてピエロ」「ロスト・イン・ダンス-抒情組曲-」

12月1日・2日・4日 東京芸術劇場
演出・振付・照明・美術・衣装 勅使川原三郎
ダンス 勅使川原三郎+佐東利穂子
歌 マリアンヌ・プスール 指揮 ハイメ・ウォルフソン
演奏は多久潤一郎(フルート)岩瀬龍太(クラリネット)田口真理子(ピアノ)松岡麻衣子・甲斐史子(ヴァイオリン)般若佳子(ヴィオラ)山澤慧(チェロ)
詳細は http://www.st-karas.com/camp0713-2/

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