阿部裕恵と清瀧千晴が初役に挑戦した、牧阿佐美バレヱ団『白鳥の湖』
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ワールドレポート/東京
関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi
牧阿佐美バレヱ団
『白鳥の湖』三谷恭三:演出・振付(プティパとイワノフのオリジナル振付及びテリー・ウエストモーランド版に基づく)
第1幕 撮影/山廣康夫(すべて)
牧阿佐美バレヱ団の『白鳥の湖』は、1895年に初演されたマリウス・プティパ&レフ・イワノフ版に基づいて英国ロイヤル・バレエ出身のテリー・ウエストモ-ランドが演出・振付を行ったものに、さらに三谷恭三が手を加えたヴァージョンである。もともと、英国ロイヤル・バレエの前身ヴィック・ウエルズ・バレエには、マリインスキー劇場の舞台監督であったニコライ・セルゲイエフにより、この劇場のいくつかのステパノフ式舞踊譜が伝わっており、『白鳥の湖』もそれにより上演された。それに加えてロシアからロンドンに移り住んだタマラ・カルサヴィナや、フランスに移住後に英国ロイヤル・バレエにロシア・バレエを伝えたマチルダ・クシェシンスカヤ、他にも多くのロシアの舞踊家がロンドンに移住しているが、彼らにより、この作品へのいっそう詳しい指導が行われている。
『白鳥の湖』は、こうしたプティパ/イワノフ版に基づくヴァージョンと、ブルメイスティルが行った、プティパ/イワノフ/ドリコ以前のチャイコフスキーの曲順を尊重した演出・振付のどちらかに基づく改訂版が、今日では多くが上演されている。
そして、プティパ/イワノフ版に基づいて演出・振付を行ってきた英国ロイヤル・バレエも、その後ダウエル版などの改訂を加え、今年2018年には、30年ぶりにリアム・スカーレットが新たに演出した『白鳥の湖』を上演している。
阿部裕恵、清瀧千晴
阿部裕恵、清瀧千晴
パ・ド・トロ 撮影/山廣康夫
牧阿佐美バレヱ団の『白鳥の湖』は、オデット/オディールに青山季可・阿部裕恵、ジークフリート王子に菊地研・清瀧千晴、というWキャストが組まれていた。私は、阿部裕恵と清瀧千晴というともに初役となるペアで観た。
この『白鳥の湖』は、道化は登場せず、第1幕では家庭教師(保坂アントン慶)が娘たちと戯れて「老い」を晒す。そしてパ・ド・トロワ(高橋万由梨、光永百花、田村幸弘)が踊られる。光永は京都バレエ専門学校から2016年に入団している。第3幕ではパ・ド・カトル(織山万梨子・米澤真弓、坂爪智来、濱田雄冴)が踊られる。かつては男性ダンサーによるパ・ド・カトルだった時もあったように記憶するが、ここでは2組のペアが踊った。この二つの踊りは、第1幕と第3幕の形を整えるのに必要であり、全体のバランスを保つ役目を果たしている。
またデヴェルテスマンは、ルースカヤ、チャルダッシュ、スパニッシュ、ナポリターナ、マズルカというオーソドックスな並びで踊られる。ルースカヤを踊った日高有梨がロシア貴族の豪奢な雰囲気を感じさせる踊りでとても良かった。
阿部裕恵と清瀧千晴の主役ペアを見るのは、阿部が全幕主役デビューとなった昨年7月の『ドン・キホーテ』に続いて2回目になる。ともにしかりと安定した踊りで全幕を踊り通した。安定感のあるペアである。ただ、感情の表現はもう少し力を入れて表しても良いのではないか、と思った。特に第4幕は物語としては完結しているのだが、やはり大悲劇である。表現をもっと大きく変化させでも良いのではないか、と思われるのだがどうだろうか。
クラシック・バレエの『白鳥の湖』には、時代や文化などの作品の背景を越えて、永遠に不変の美しさが描かれている、と思われる。観客はダンサーたちに導かれて、その美しさと出会い感得するのである。
(2018年9月30日 文京シビックホール 大ホール)
チャルダッシュ
パ・ド・カトル
第3幕
塚田渉
第2幕 撮影/山廣康夫(すべて)