11月と12月に『イン・ザ・ナイト』『スプリング・アンド・フォール』『小さな死』、そして『ザ・カブキ』で主要な役を踊る東京バレエ団プリンシパル、秋元康臣に聞く

ワールドレポート/東京

インタビュー/佐々木 三重子

東京バレエ団のプリンシパルとして目覚ましい活躍を続ける秋元康臣が、11月30日〜12月2日に新国立劇場・中劇場で開催される〈20世紀の傑作バレエ2〉で、ロビンズ、ノイマイヤー、キリアンという全く作風の異なる振付家の作品に出演するのに続き、12月15、16日には東京文化会館で上演されるベジャールの『ザ・カブキ』に主役の由良之助とその主君の塩冶判官を日替わりで演じる。公演を控えて、それぞれの作品のリハーサルに明け暮れる秋元に、作品の魅力や役との取り組みについて聞いた。

――〈20世紀の傑作バレエ2〉では、ロビンズの『イン・ザ・ナイト』とノイマイヤーの『スプリング・アンド・フォール』、キリアンの『小さな死』に出演されますが、どれも既に踊られていますね。『イン・ザ・ナイト』ではショパンのノクターンにのせて3組のカップルが登場しますが、2017年にバレエ団としてこれを初演した時は、1曲目のカップルを踊られました。今回はどの曲ですか。

秋元 前回と同じ1曲目で、パートナーも前回と同じ沖香菜子さんです。この作品には3つのパ・ド・ドゥがありますが、ストーリーというものはなくても、それぞれに個性というか全く違ったカラーがあります。1曲目は、ロミオとジュリエットのような、初恋というか、本当にきれいな男女の愛というものが受け取れるパ・ド・ドゥだなあと感じました。

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「イン・ザ・ナイト」photo/Kiyonori Hasegawa

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「イン・ザ・ナイト」photo/Kiyonori Hasegawa

――前回とは違う曲を踊ってみたいとは思いませんでしたか。

秋元 いいえ。実は初演する時に、ワークショップのような形で、皆でいろいろなところを踊ってみたのです。1つ目も2つ目も3つ目もやってみて、合うものを見つけてもらったという感じでした。僕は1曲目が好きですね。音楽もアダージオで柔らかさがあり、きれいで、何も凹凸がないところがすごく好きです。もちろん難しい部分はあります。しっとりと無駄なくパ・ド・ドゥを動かしていくのはすごく難しい。音楽がすごくきれいなので、その中でのパ・ド・ドゥとなると、ふだんの古典バレエの感じとはちょっと違って、手つきもすごく柔らかいんです。二人が本当に繫がっているような使い方をしたり、二人がきれいに同じ動きをしてから僕がリフトするようなのも多いので、そういうところが難しいです。

――『スプリング・アンド・フォール』には、どのような印象を持たれましたか。

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「スプリング・アンド・フォール」
photo/Kiyonori Hasegawa

秋元 こちらは溌剌としていて、透明感がありますね。僕の中では、透明感を少し意識しながらやっていきたい作品です。最初は男性だけで、ソロがあったり、皆と一緒に動いたりというのが多いので、そういう部分が見所かなあと思います。『イン・ザ・ナイト』はクラシック・バレエそのままの形が結構ありますが、『スプリング・アンド・フォール』はノイマイヤーさん独特の動きであったり、手の付け方だったりが多いので、体の動きも遠くに広く広く出したりとかしないといけません。力んだりするとできない部分が多いので、そうならないよう気を付けながら踊りたいですね。これもパ・ド・ドゥは沖さんと踊ります。
 
――『小さな死』は、どのように感じられましたか。

秋元 前回は2週間ぐらいの短い期間で練習したので、本当に無我夢中でした。最初のフェンシングを持って男性陣が登場するところから緊張しっぱなしで、すごく集中力を使いました。静かな中で始まりますしね。客席で観た時は、凜とした、すごく神秘的な作品という印象を受けました。こんなに格好よく出来上がっているんだって思いました。

――フェンシングの剣や女性のクリノリン・ドレスなど、象徴的な要素も多そうですが。(フランス語の原題は「オルガスムス」を示唆するという)

秋元 そうですね、フェンシングは男性の象徴というか、日本ではあまり表現しないものかもしれませんね。そういう部分をさらけ出している作品は(日本には)あまりないかなと思うので、そういう意味ですごく新鮮な感じでした。振りでは、女性の上に乗ったりするし、体重のかけ方などにもちょっとしたコツが必要で、動きも体の使い方も、ロビンズやノイマイヤーとは全然違うんですよ。だから、日々のリハーサルで使い分けしていかないといけません。そういう意味では〈20世紀の傑作バレエ〉はすごく難しい公演です。

――ベジャールが歌舞伎の「仮名手本忠臣蔵」をもとに振付けた『ザ・カブキ』ですが、由良之助の役は2016年に踊られていますね。

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「ザ・カブキ」photo/Kiyonori Hasegawa

秋元 一度演じただけなので、今回もイチから始めるといっても過言ではないくらい緊張感があります。前回はプレッシャーも大きかったので、本番では結構緊張してしまい、出だしはガチガチ。最初のロックのシーンなど、滑らかにいかないといけないのに硬すぎてしまいました。今回は余裕が出せたらなあとは思いますし、もっと音に慣れていかないといけないと思います。音で動きがパキッと決まるので、そこに感情も乗せて、その感情もさらに強くと。前回は多少振りに追われてしまうようなところがあったので、体が勝手に動くような状態でいて、なおかつ、そこから強い意志みたいなものが出せればと思います。ベジャールの振付って「凄い」のひとことです。日本人でない方が振付けているのに、日本の良さだったり、動きの中のポーズや歩き方だったり、一つ一つこだわって創られています。それぞれの動きは的確に音にはまっているので、それをまず自分の体に入れるのが難しいですね。
由良之助の役は現代の青年が何かに気付くところから始まって、タイムスリップして段々と由良之助になり、徐々に決意を固め、最後の最後で自分の魂から由良之助になりきって討ち入りを果たすというものです。(第1幕最後の)7分半の長いソロは体力的にも大変ですけど、前回の本番では、感情にも助けられて体力的にシンドイという苦しさはありませんでした。筋肉や脚だけに頼ってしまうと、つらいとかそういうことばかり考えてしまいますが、討ち入りに行くんだという内側からの思いを強くすることで違ってきます。この役を踊られた高岸直樹さんにもご指導いただきましたが、何も見えないところにも敵を見出してそこに向かって行く、というようなことを自分の頭の中でストーリーとして創っていくと、長いということをあまり考えずに楽しんでできると(教えられました)。楽しむといっても、普通にいう楽しさとは違いますけど。それにしても、最後の討ち入りシーン、格好いいですね。男性陣が入ってきて(逆三角形の)隊列を組むところなど、日本人だからできると思います。東京バレエ団にしかできない作品と思うし、そこが良さだと思っています。

――塩冶判官の役は初めてですね。

秋元 はい。リハーサルはまだ始まったばかりで、振りを入れている段階です。初日に主君の塩冶判官を演じ、二日目に家臣の由良之助を演じるというのは、恵まれていると思います。初日に自分の発した言葉が、次の日にはそれをやり遂げる人間になれるという意味です。ベジャールさんの振付ですが、独特の手の動きなどは、『くるみ割り人形』で演じたMの役でも同じような型みたいなのが出てくる時もあるので、やればやるほどその型というのは作りやすくなると思います。でも、『ザ・カブキ』では摺り足など日本の決まった作法をしなくてはなりません。塩冶判官の切腹シーンにはバレエ的な部分もあるかもしれませが、基本にはきちんとした礼儀作法があるので、これを冷静に演じるには、こなれていないととてもできません。そういう意味でも難しいですね。切腹のシーンなんかは日本人だからできたのかなというのが、まず感じたことです。礼儀正しく、浄めてから、自ら命を絶つということ......それだけの強い決意や強い心を持てるのは日本人なのだと思います。

――秋元さんはボリショイ・バレエ学校で学び、日本のバレエ団で踊られた後で、ロシアのチェリャビンスク・バレエ団に入団されました。きっかけは何だったのですか。

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秋元 チェリャビンスク・バレエ団に入ったのは、ロシアのバレエ学校で学んだのにロシアの劇場を経験していないということで心残りがあったというか、一度はロシアの劇場でロシアの雰囲気を感じて踊ってみたいという思いがあったからです。2012年のことで、3シーズン踊りました。(専属の)劇場がちゃんとあって、自分の楽屋というか部屋が必ずあってという環境。同じ部屋で毎日レッスンしてというのはどこのバレエ団でも同じですね。レッスンして、リハーサルして、舞台に臨みますが、公演回数が結構多かったので、一ヶ月に2、3公演は必ず自分の出番がありました。だから古典バレエは結構いろいろ学べました。それも一回やっておしまいではなく、常にリハーサルしておいて、次の週や翌月にまた踊るという感じでできたので、こういうふうにできるのはダンサーの理想だなあと思って、気持ち的には楽でした。なぜって、一回踏んだ舞台と2回目の舞台とでは全く変わってくるんですよ。一度踊ってみた後には考える時間がすごくあったりして、自分の余白ができるとでもいったらよいか、次ぎはこういうふうにしよう、ああいうふうにしようとか、テクニックの面でも表現する上でも、いろいろ考えて取り組めました。

――古典バレエの研鑽を積まれた後、2015年に東京バレエ団に移られました。こちらでは、〈20世紀の傑作バレエ〉のように現代作品のみによる公演もありますが、いかがですか。

秋元 全く異なるいろいろな作品が踊れるので、いい意味で落ち着けないです。次ぎは何をやって、何を考えて、これを覚えて、ということの繰り返しなので。でも、今まで古典ばかりしてきたので、古典以外のものも踊るというのは自分にとってはすごくプラスですし、自分の財産になっています。それに、現代の作品を踊った後で古典バレエを踊る時には、目には見えないかもしれませんが、必ず何かのプラスになっていると思います。

リハーサルの後のインタビューだったが、秋元は疲れも見せずに一つ一つの質問に丁寧に答えてくれた。さらに、このほどハンブルクで"Festival Koinzidenz"という音楽祭の舞踊部門"Tanaz-Gala Koinzidenz"の公演に出演した時のことも語ってくれた。踊ったのは、団員で振付家としての才も発揮するブラウリオ・アルバレスが音楽祭のために作曲された音楽に振付けた『デーモン』で、共演は川島麻実子と渡辺理恵(2018年3月退団)。渡辺が悪魔的な存在の役をにない、秋元と川島を引き合わせようとしたりするが、結局すれ違ってしまうという、男と女のドロドロとした関係を描いた11分ほどの作品だそうだ。演じるのは難しそうな作品に思えるが、こうした多彩で幅広い活動が秋元のバレエをさらに深めることにもなっているのだろう。東京バレエ団の公演ではどんな舞台を見せてくれるか、期待したい。

<20世紀の傑作バレエ2>

『イン・ザ・ナイト』(ロビンズ)『ボレロ』(ベジャール)『スプリング・アンド・フォール』(ノイマイヤー)『小さな死』(キリアン)
11月30日〜12月2日 新国立劇場 中劇場

『ザ・カブキ』(全2幕)モーリス・ベジャール振付
12月15日、16日 東京文化会館

詳細は https://www.nbs.or.jp

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