ヌレエフの半生を描いた『ホワイト・クロウ』(原題)が第31回東京国際映画祭で最優秀芸術貢献賞を受賞した

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

WC_Oleg Ivenko_first look.jpg

20世紀末に世界の舞台で鮮烈に踊った伝説的男性ダンサー、ルドルフ・ヌレエフの半生を描いた映画『ホワイト・クロウ(The White Crow)』(原題)が、第31回東京国際映画祭で、最優秀芸術貢献賞(Award for Best Artistic Contribution)を受賞した。
『ホワイト・クロウ』は映画『ハリー・ポッター』『シンドラーのリスト』などに出演しているレイフ・ファインズが監督したもので、イギリスのバレリーナだったジュリー・カヴァナの本『ルドルフ・ヌレエフの人生』を原作としている。また、ファインズはヌレエフのキーロフ・バレエ時代の教師、アレクサンドル・プーシキン役で出演し、名教師だが複雑な立場に立つ人物像を演じている。
主役のヌレエフを演じたのは、タタール国立オペラ劇場の現役ダンサー、オレグ・イヴェンコ。当時、旧ソ連で活躍したが、家族を残し謎の自殺をはたしたダンサー、ユーリ・ソロヴィヨフ役でセルゲイ・ポルーニンも出演している。
この映画は、ヌレエフがシベリア鉄道を疾走する列車の中で生まれた、という有名なシーンに始まり、貧しかった幼い頃、バレエの修行時代、パリ公演中の西側への亡命、という彼の前半生の3つの時を様々に組み合わせ、ヌレエフが強い意志により自分自身を実現する姿を描いている。

DSCF7003.jpg

中でも最もスリリングなのは、パリの空港で決行されたヌレエフの亡命劇。1961年6月16日に実際に起こった出来事の再現である。亡命で重要な役割を果たしたチリ人女性クララ・セイント、フランスの著名な振付家ピエール・ラコット、パリ・オペラ座のエトワールだったクレール・モットーなど、実在で存命の人物も登場し、フランス空港警察と必死で阻止しようとするKGBの監視員たちとが、瀬戸際の攻防を繰り広げる。
『ホワイト・クロウ』のプロデューサー、ガブリエル・タナによれば、原作のヌレエフの話に加えてラコットなど実際に現場にいた人物からも十分に事実を聞き、細密に再現した「トゥルー・ストーリー」だという。

ralph-fiennes-directing-oleg-ivenko_credit-the-white-crow_lowres-cropped.jpg

ヌレエフに扮したオレグ・イヴェンコは、上目つかいの表情や踊る時の仕草などでは本物を彷彿させる器用さを見せている。ただ、"黒豹"に例えられたヌレエフのバレエダンサーにあるまじき精悍なエネルギッシュな印象を再現するまでには至っていない。最もそれができたら本物が復活してしまうことになるが。
イヴェンコはバレエダンサーであって映画出演は初めてだが、監督のファインズが巧みに導いたのだろうか、しっかりと演じ、今では俳優の道に進みたい、とも思い、英語をマスターしようと頑張っているそうだ。

A_2_0699.jpg

『ホワイト・クロウ』(原題)

監督:レイフ・ファインズ
脚本:デヴィッド・ヘアー
プロデューサー:ガブリエル・ターナ
出演:
アデル・エグザルコプロス・・・クララ・サイント
オレグ・イヴェンコ・・・ルドルフ・ヌレエフ
セルゲイ・ポルーニン・・・ユーリ・ソロヴィヨフ
レイフ・ファインズ・・・アレクサンドル・プーシキン
チュルパン・ハマートヴァ・・・クセーニア・ヨシーフォヴナ・プーシキン
ラファエル・ペルソナ・・・ピエール・ラコット
カリプソ・ヴァロワ・・・クレール・モットー
ルイス・ホフマン ・・・テイヤ・クレムケ

配給:キノフィルムズ 2019年公開予定
©2019 BRITISH BROADCASTING CORPORATION AND MAGNOLIA MAE FILMS

ページの先頭へ戻る