静かにみなぎる爆発的パワー Kバレエ『ドン・キホーテ』公開リハーサル・レポート
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坂口 香野 Text by Kaya Sakaguchi
10月31日。11月16日に初日を控え、『ドン・キホーテ』の公開リハーサルが、東京・小石川にあるKバレエカンパニーのスタジオで行われた。同作品の魅力を知り尽くした熊川哲也が、2004年に満を持して発表した熊川版『ドン・キホーテ』である。今回の公演はカンパニー創立20周年記念シリーズでもあり、稽古には一層熱がこもる。
まずは第一幕二場、主役カップルのパ・ド・ドゥから。指導は宮尾俊太郎。この日のキトリ&バジルは、10月の『ロミオとジュリエット』で好評を博したばかりの矢内千夏、堀内将平。いずれも初役だ。
「恋人どうしの初々しさもありつつ、スペインらしいパッションを感じさせる、そんなシーンを見ていただきたいと思います」と宮尾。ピアノが鳴り響く。二人はあおりたてるようなアップテンポに一歩も引かず、柔らかなプリエで体を弾ませ、小気味よく高速ステップを繰り出す。「もっとバウンスを効かせて」「音より先に動き出さない。ギリギリまで溜めて......ここで走り出す」と宮尾から注意が飛ぶ。動きにさらなる「溜め」や「遊び」が生まれていく。
キトリ&バジルという役柄には、超絶技巧を「どうだ!」とばかりに見せつけるイメージがあるけれど、この二人は少し違っていてもっと自然だ。矢内のキトリは、微笑みつつバジルと音楽に勝負を挑んでいるような、勝ち気なかわいらしさがある。堀内のバジルも、ことさらに伊達男ぶりを強調しないけれど、ふっと「溜め」をつくってポーズを決めた瞬間、なんとも言えない色気がたちのぼる。
キトリのつま先を、バジルがつかまえようとする。キトリはつかませない。二度つま先に逃げられたバジルは、キトリをいきなり体ごととらえてリフト。よく「恋の駆け引き」と表現されるシーンだが、二人は超絶技巧の応酬をしながら、互いのことを「もっと知りたい」と囁き合っているようにも見えた。なるほど、「初々しさ」という宮尾の言葉に納得する。これは『ロミオとジュリエット』とはまた違う「純愛」のお話でもあるのだ。
続いて一幕の終盤近く、難しいリフトのあるシーンに移る。片脚を横に高々と上げたキトリを、バジルが片手で頭上高く持ち上げる。支える位置やタイミングが少しでもずれればうまく上がらないし、女性にとってはかなりの高さとなり、恐怖感も伴う。宮尾は「個人差はあるけど、僕の場合は......」と、自ら手本を見せつつ細かく指導していく。「1回目のリフトでどんなにバランスがうまく乗ったとしても、2回目のリフトはそれより長く」「押し上げる前に腕でしっかりリズムを刻んでおくと、女性がタイミングを合わせやすいよ。女性のバランスに同調して」。二人の息がさらに合っていく。淡々と、でも楽しげに課題と向き合う二人から、時折秘めた爆発力の片鱗がのぞく。
続いて、芸術監督補佐・前田真由子の指導による第二幕「夢の場」のリハーサル。夢の場といえば優雅で静的な場面という印象があるが、熊川版では優雅さの中にも大きなエネルギーを感じさせる構成となっている。コール・ド・バレエの森の精たちは、互いにすれ違ったり唐草模様のように絡んだりしつつ、次々とフォーメーションを変えていく。これだけ速い展開の中で、クラシック・バレエ特有の整然とした美しさを保つのは並大抵ではない。前田からは位置取りの間隔や動きのスピード、腕や脚の微妙な角度など細かな注意が飛ぶ。特に、コール・ドが大きな十字型の隊列を組んでぐるぐる回る「風車」フォーメーションは圧巻だ。その周りをかろやかなジュテで跳び回るキューピッド役の河合有里子は、風車を回転させる風のようにもみえた。
濃密なリハーサルを通して、ダンサー一人ひとりのエネルギーがひとつになり、ぐっと圧縮されていく。まもなく、そのエネルギーが舞台上ではじける。開幕が楽しみだ。
Tetsuya Kumakawa K-BALLET COMPANY Autumn Tour 2018
『ドン・キホーテ』
2018年11月16日(金)〜18日(日)
東京文化会館 大ホール
チケット発売中
チケットスペース TEL:03-3234-9999
Webサイト:http://www.k-ballet.co.jp/performances/2018donquixote