アンナ・カレーニナの悲劇とその後を描く映画『アンナ・カレーニナ ヴロンスキーの物語』公開される
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森 瑠依子 Text by Ruiko Mori
トルストイの長編小説『アンナ・カレーニナ』は、『白鳥の湖』や『ラ・バヤデール』が初演された時代、1870年代のモスクワとペテルブルグを主な舞台とする不朽の名作。映画の題材としても人気が高く、世界中でこれまで30回以上映画化されているという。その最新版で昨年ロシアで制作されたカレン・シャフナザーロフ監督作品『アンナ・カレーニナ ヴロンスキーの物語』が11月10日より日本で公開される。
この映画の大きな特徴は、トルストイの原作にヴィケーンチイ・ヴァレサーエフ作の小説『日露戦争にて』で描かれた世界を融合したところにある。日露戦争時の満州で、アンナの息子セルゲイは、自分の家庭を崩壊させた憎むべき母の愛人アレクセイ・ヴロンスキーに、軍医と負傷兵という立場で出会う。セルゲイはヴロンスキーに、なぜ母は自殺しなければならなかったのかと尋ね、ヴロンスキーの回想の中で『アンナ・カレーニナ』の物語が再現される――ヴロンスキーと人妻アンナは許されない恋に陥り、世間の反感を買って社交界から締め出され、居場所を失った。アンナは離婚を求めるが夫カレーニンは承諾せず、息子と引き離されたりヴロンスキーの気持ちが信じられなくなったりしたアンナは精神を病み、駅で列車の前に身を投げたのだった。そしてヴロンスキーはセルゲイに、アンナの死後30年の間、決して彼女を忘れることはなく、いつもアンナがそばにいると感じていたと語る。やがてふたりの前に日本兵が迫ってくる......。
アンナ役のエリザヴェータ・ボヤルスカヤ、ヴロンスキー役のマクシム・マトヴェーエフは実生活でも夫婦であり、ともにロシアの実力派俳優。カレーニン役のヴィタリー・キシュチェンコは映画『マチルダ 禁断の恋』にも出演し、マチルダ・クシェシンスカヤをニコライ皇太子から引き離そうとするヴラーソフ大佐を演じていた。いずれも迫真の演技で物語に深みを加えている。
アンナ・カレーニナの物語はバレエとも親和性が高く、マイヤ・プリセツカヤは1972年にボリショイ・バレエで全3幕の作品を共同振付けして主演した(1967年のロシア映画『アンナ・カレーニナ』にも彼女はベッツィ役で出演している)。映像を組み合わせた全2幕のアレクセイ・ラトマンスキー版は2012年にマリインスキー・バレエの来日公演で上演されたので、ご覧になった方も多いだろう。この2作はプリセツカヤの夫ロジオン・シチェドリンの音楽を用いている。一方、2005年初演のボリス・エイフマン版はチャイコフスキーの交響曲などを使った全2幕版。新国立劇場バレエのレパートリーとしてもおなじみで、来年7月に本家エイフマン・バレエの来日公演で上演される予定だ。また、バレエそのものではないが、2012年制作のジョー・ライト監督、キーラ・ナイトレイ主演の映画『アンナ・カレーニナ』では、舞踏会の場面でシディ・ラルビ・シェルカウイの振付によるバレエ作品を見ているかのような華麗なダンスを堪能できる。
ボリス・エイフマン振付「アンナ・カレーニナ」photo/Evgeny Matveev
この映画は砲撃にさらされる戦地でアンナの悲劇の後日談が進行するという独特の設定をもちながら、回想部分は原作に忠実なセリフによる格調高く重厚な文芸作品となっている。許されない愛に取り憑かれて破滅に向かって突き進む恋人たちと、ふたりによって人生を狂わされる夫や子供たちの喜びや苦しみは、原作の時代から150年近くたった現代の人間にも共通する普遍的な感情といえるだろう。『アンナ・カレーニナ』の新たな名作としてお勧めしたい。『アンナ・カレーニナ ヴロンスキーの物語』
監督:カレン・シャフナザーロフ
原作:レフ・トルストイ+ヴィケーンチイ・ヴェレサーエフ
出演:エリザヴェータ・ボヤルスカヤ マクシム・マトヴェーエフ ヴィタリー・キシュチェンコ
© Mosfilm Cinema Concern, 2017
2017年/ロシア/138分
後援:ロシア文化フェスティバル
配給 パンドラ
公式サイト:anna2017.com
11/10(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸、以後全国順次公開予定。