大きく花開いた「劇的舞踊」、金森穣の演出振付による『ROMEO & JULIETS』

ワールドレポート/東京

佐々木 三重子 Text by Mieko Sasaki

Noism1×SPAC 劇的舞踊Vol.4

『ROMEO & JULIETS』(ロミオとジュリエットたち) 金森穣:演出振付・出演

りゅーとぴあ(新潟市民芸術文化会館)専属の金森穰率いるダンスカンパニーNoism1とSPAC(静岡県舞台芸術センター)による"劇的舞踊"のVol.4として、金森の演出振付による『ROMEO & JULIETS』(ロミオとジュリエットたち)が、新潟、富山、静岡に続き、埼玉で上演された。
"劇的舞踊"とは、物語を作品化することが少なくなったコンテンポラリー・ダンス界の現状を鑑みて金森が試みる新形式の舞台表現で、よく知られるオペラやバレエ、演劇の物語を構築し直し、踊りで表現する舞踊家と言葉による演技で表現する俳優が一体となることにより生み出される、舞踊でも演劇でもない独自の舞台芸術を目指している。2010年の『ホフマン物語』に始まり、『カルメン』『ラ・バヤデール-幻の国』に続く4作目である。シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』とプロコフィエフの音楽をもとに、精神病院を舞台に、車椅子のロミオと5人のジュリエットたちの物語を描くという金森の大胆な構想である。Noim1からは金森を含む11人のダンサーが、SPACからはロミオ役の武石守正ら8人の俳優が出演した。

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Photo:Kishin Shinoyama

舞台の両袖にロウソクの炎がゆらめく中、プロコフィエフの音楽が鳴り響き、白い患者服を着せられた男女が現われて踊る冒頭から、異様な雰囲気に包まれた。上方のスクリーンには名門二家の抗争が続くヴェローナの都の説明が文字で映されたが、その争いを思わせるような荒々しいダンスだった。後方に設置された何枚もの大きな鏡が極めて効果的に用いられ、瞬時に場面を転換し、また映し出す光景に、虚か実か、表か裏かなど、重層的な意味合いを持たせもした。

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[中央] 武石守正(SPAC)Photo:Kishin Shinoyama

ロミオの武石は、看護師の井関佐和子が押す車椅子に乗せられて登場。座ったままなので動きが制約されるとはいえ、武石の太く強靱な語りはダンスに劣らない説得力があった。反対にジュリエット役の5人のダンサーは言葉を用いずに身体の動きだけですべてを伝えるわけで、5人はジュリエットの内面をそれぞれ違った角度から表わしていたようだが、どこか落ち着きのない動きが目についた。SPACの俳優たちが台詞を和す力強い声は、ダンスに拮抗する力強さでドラマを推進していたが、プロコフィエフの音楽にそぐわない部分も感じられた。

ストーリーそのものは、ほぼ原作に沿って進行した。前半の踊りの見せ場は"バルコニーのパ・ド・ドゥ"で、ロミオは車椅子を操作しながら、次々に現われるジュリエットたちを抱きとめるが、その繰り返しが愛の高まり象徴して秀逸だった。ダンスではほかにティボルトの中川賢の研ぎ澄まされた踊りが際立ったが、アンドロイドの看護師を演じた井関のゼンマイ仕掛けを思わすような身振りが空間を切り取るようで、印象に残った。なお、ロミオとジュリエットが出会うキャピュレット家のパーティーで挿入された、レオナルドの名画「最後の晩餐」を思わせるシーンは何とも暗示的だ。キャピュレット家とモンタギュー家の人々にはそれぞれ患者番号がつけられていたが、ナンバリングされることで各々の個性は薄まり、どこかで常に監視・管理されていることが見て取れた。現代の監視社会を彷彿させる、金森の鋭い視点が感じられた。

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[左から]三島景太(SPAC)、井関佐和子(Noism1)、貴島 豪(SPAC) Photo:Kishin Shinoyama

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井関佐和子、浅海侑加(Noism1)Photo:Kishin Shinoyama

後半は、医師でありロレンスでもある金森のソロで始まった。黒のパンツに白い服、黒メガネという出で立ちで、片腕には白い手袋。白手袋の腕とはめてない腕の動きを微妙に変えながら、脚を大胆に振り回して周囲を威圧するように踊る姿は強烈なインパクトを放ち、このドラマを司る絶対権力者であると確信させた。看護師の井関が現われてデュエットになるが、アンドロイドでも意思があるのか、金森の抱擁をすり抜けてしまった。ロミオとジュリエットを襲う悲劇は原作に沿って進行した。終盤、ロミオは白い布で覆われた亡骸をジュリエットのものと思って悲しみ、自刃するが、実はそれは彼がジュリエットと出会う前に恋していたロザライン(井関の二役)だったという意表を突いた展開が待っていた。井関はアンドロイドから感情豊かな人間に変身したようで、亡くなったロミオをいとおしげに抱きしめ、彼を抱いたまま仲良く奈落に落ちていった。医師・ロレンスは自分の意図しない結末に憤りを抑えきれないようで、険しい眼差しで二人が消えた奈落をのぞき込む姿は鮮烈な印象を残した。『ROMEO & JULIETS』は、金森が意図する"劇的舞踊"がより大きく花開いたと実感させる、充実した舞台だった。

(2018年9月15日 彩の国さいたま芸術劇場)

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Photo:Kishin Shinoyama

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