古典バレエの原点ともいうべきプティパの多彩な作品を見事に踊った、東京バレエ団

ワールドレポート/東京

佐々木 三重子 Text by Mieko Sasaki

東京バレエ団

マリウス・プティパ生誕200年記念〈プティパ・ガラ〉

"クラシック・バレエの父"と称されるマリウス・プティパの生誕200年を記念して、東京バレエ団が〈プティパ・ガラ〉と題して、この振付家の作品による特別ガラ公演を横浜の神奈川県民ホールで行った。
プティパ(1818-1910年)はフランス生まれのダンサー・振付家で、マルセイユやマドリード、ニューヨークで活動した後、サンクトペテルブルクのマリインスキー劇場に招かれた。プリンシパルダンサーとしての起用だったが、その後、首席バレエマスターに就任し、チャイコフスキーの三大バレエをはじめ、『ドン・キホーテ』『ラ・バヤデール』など、数多くの名作バレエを手掛けた。今回のガラ公演では、格調高い群舞から華麗なパ・ド・ドゥやコミカルなタッチの作品まで、多彩な7作品が上演された。演奏はワレリー・オブジャニコフ指揮の神奈川フィルハーモニー管弦楽団。

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「アルレキナーダ」Photo:Kiyonori Hasegawa

幕開けは、ポンキエッリのオペラ『ジョコンダ』より第3幕第2場で踊られる「時の踊り」。メインを務めた柿崎佑奈は堅実にフェッテをこなし、ブラウリオ・アルバレスは弾けるようなマネージュを披露し、柿崎を高くリフトしてみせた。「朝」「昼」「夜」「夜中」の時の移ろいを伝える女性たちの群舞もやわらかで美しかった。
イタリアの仮面劇コンメディア・デッラルテふうの全2幕のバレエ『アレルキナーダ』よりパ・ド・ドゥを踊ったのは足立真里亜と樋口祐輝。2人は恋人同士だが、女性は男性の心をくすぐるように、わざと思わせぶりな素振りをするのが愛らしく、男性は女性に夢中なさまをストレートに表わすといった具合で、テクニックに加えマイムや演技のやりとりでも楽しませた。特に樋口の高いジャンプと空中での開脚が見事だった。
『エスメラルダ』からは、ある婚約式に招かれたエスメラルダが、余興に詩人の夫グランゴワールと踊るパ・ド・ドゥに焦点が当てられた。踊ったのは伝場陽美と柄本弾。自分を危機から救ってくれたフェビュス隊長と恋におちたエスメラルダだが、その隊長の婚約式と知った後も、哀しみをこらえて踊る伝場の姿が痛々しかった。フェビュスへの切ない思いと愛していない夫への思いが入り乱れる様をタンバリンで叩き分けてもいた。グランゴワールの柄本は、エスメラルダの心の内を思いやりながら、彼女の気持ちを引き立てようとタンバリンを鳴らし、懸命に明るく振る舞う姿が印象的だった。

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『ラ・バヤデール』より〈影の王国〉Photo:Kiyonori Hasegawa

第2部は『ラ・バヤデール』より"バレエ・ブラン"(白いバレエ)の美の極致といわれる"影の王国"。月明かりのもと、幻になった舞姫ニキヤと戦士ソロルが、白いチュチュの幻影たちの群舞と交錯するように踊るシーン。ニキヤの川島麻実子は、たおやかな凜とした身のこなしで手堅くまとめた。ソロルの秋元康臣は一つ一つのフォームが美しく、しなやかなジャンプが冴えた。"影の王国"の群舞の美しさには定評のあるバレエ団だけに、指先や足先まできれいに揃い、精霊たちが一体になったように精緻なアンサンブルを紡ぎ、ニキヤとソロルの魂のデュエットを引き立てていた。

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『ラ・バヤデール』より〈影の王国〉Photo:Kiyonori Hasegawa

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『ラ・バヤデール』より〈影の王国〉Photo:Kiyonori Hasegawa

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『ラ・バヤデール』より〈影の王国〉Photo:Kiyonori Hasegawa

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「騎兵隊の休息」Photo:Kiyonori Hasegawa

第3部は『騎兵隊の休息』で始まった。オーストリアのある村で大佐の率いる騎兵隊が休息する間に巻き起こす騒動をコミカルに描いた1幕のバレエで、ここでは村長の娘マリアと彼女が思いを寄せるピエールのパ・ド・ドゥが、秋山瑛と井福俊太郎により踊られた。若さ溢れる瑞々しいペアで、楽しげに演じていたが、高度なテクニックもこなした。井福がリズミカルなアントルシャや勇壮なマネージュをこなせば、秋山もダブルを入れたグラン・フェッテを鮮やかに決めた。
次の『タリスマン』は、天界の女王の娘エッラと下界で出会った貴族の青年との恋を描いた作品で、「タリスマン」とは女王が娘に持たせた永遠の命を約束する星のお守りのこと。ここでは、エッラが風の神と共に下界に行くパ・ド・ドゥが踊られた。エッラの沖香菜子は流麗な振りを軽やかに滑らかにつないで爽やかな印象を与えた。宮川新大は逞しい風の神を好演。勇壮なジャンプが見応えがあった。

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「タリスマン」Photo:Kiyonori Hasegawa

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「タリスマン」Photo:Kiyonori Hasegawa

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「ライモンダ」Photo:Kiyonori Hasegawa

最後は『ライモンダ』よりライモンダとジャン・ド・ブリエンヌの婚礼の場面のグラン・パ・ド・ドゥで、ベテランの上野水香と柄本弾が華麗に締めくくった。上野はポアントで美しい姿勢を保ったまま優雅に手を打ち、軽快なステップも端正にこなした。柄本もサポートを含め、安定感ある演技で応じていた。男女のペアの群舞も雰囲気を盛り上げた。

以上、プティパの振付の多彩さを提示するような今回のプログラムは、2時間50分という長丁場の公演になった。現代作品も鮮やかにこなす東京バレエ団のダンサーたちが、古典バレエの原点ともいえるプティパの作品を的確に踊る姿を見て、心強く思った。
(2018年9月1日 神奈川県民ホール)

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「ライモンダ」Photo:Kiyonori Hasegawa

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