ボリショイ・バレエ最近作のライブ映像8作品を順次上映、Bunkamura ロシアン・セレブレーション in ル・シネマ

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

創立30周年を迎える東京・渋谷のBunkamuraは、2018年がロシアン・イヤーであることから<ロシアン・セレブレーション>として、様々な企画公演を11月から開催する。
このBunkamuraの文化施設すべてにわたる大きなイベントの記者会見が、東京・港区のロシア大使館で開かれた。登壇者は東急文化村 代表取締役社長 中野哲夫、ロシア連邦交流庁在日代表部部長 ヴィノグラドフ・コンスタンチン、ロシア文学者で『磔のロシア』などの著者やドストエフスキーの新訳で知られる亀山郁夫、ピアニストの松田華音。そしてロシア大使館のエントランスホールでは、応援キャラクターを務めるチェブラーシカの大きなぬいぐるみが記者たちを迎え、和やかな雰囲気を醸した。
中野社長の挨拶、ヴィノグラドフの見事な日本語スピーチに続いて、ロシアン・セレブレーション アンバサダーでもある亀山郁夫がロシアの芸術をどう受容するかについて語った。
よく「ロシア人は理解できない、ロシア人はエニグマ(謎)だ」と世界の人々から言われる。それは先日、プーチン大統領が日本と前提条件なしで平和条約を結びたい、と提案したことに対して、日本の新聞が(今までの交渉を無に帰する)<ちゃぶ台返し>と表現したことにも表れているのではないか。これはおそらく全体的な発想であり、ロシア人のメンタリティを考慮して捉えるべきことだろう。ロシアの歴史は断絶の歴史であり、ロシア人は熱狂と恍惚(エクスタシー)の民である。さらに言えばロシア人のことはロシア人自身がわからない。ロシアはひたぶる信じるのみなのだ。そして自分と他人の境界がない状態の時にこそ精神が高まるのである。
では、その熱狂と恍惚はどこから来るのか。それはロシアの大自然であると、ドストエフスキーの小説の舞台やトレチャコフ美術館展でも展示されるイワン・シーシコフの「正午、モスクワの郊外」イワン・クラムスコイの「月明かりの夜」などの名画を引き合いにして語った。また、ロシアの亡命芸術家たちの誇大妄想的ともいうべきノスタルジーは、ロシアの大自然の中から生まれたもの。ロマンティックとは、つまりは心に傷を抱え、それを癒そうとすることではないだろうか、と、亀山自身のロシア旅行の写真などもスライド上演しながら熱く語った。
そしてグリーク国際ピアノ・コンクールのグランプリ受賞他、ロシアで学び世界で活躍する松田華音がピアノ演奏を披露。演奏はムソルグスキー作曲の「古典様式による間奏曲」。華麗な演奏が響き渡り、記者たちにロシアの心を感じた。
最後はフォトセッション。亀山郁夫と松田華音が、ロシアの人気者チェブラーシカとともにカメラに収まった。

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「海賊」©Pathe Live

そして注目はBOLISHOI Ballet in シネマ。Bunkamuraのル・シネマでは11月16日〜30日まで、ボリショイ・バレエ 2017-18シーズン全8作品のライヴ映像すべてを順次上映する。

すべてボリショイ・バレエ団が上演したもので、アレクセイ・ラトマンスキー振付による『海賊』(エカテリーナ・クリサノワ、イーゴリ・ツヴィルコ、2017年10月収録)『ロミオとジュリエット』(クリサノワ、ウラディスラフ・ラントラートフ、2018年1月)『パリの炎』(マルガリータ・シュライナー、デニス・サーヴィン、2018年3月)の3本。ラントマンスキーは今、世界で最も多くの作品を振付けているのではないか。今年7月にもABTで『ホイップクリーム』が上演されている。実に精力的な仕事ぶりである。
モナコのモンテカルロ・バレエの芸術監督ジャン=クリストフ・マイヨーにボリショイ・バレエが振付を頼んだ『じゃじゃ馬馴らし』(クリサノワ、ラントラートフ、オルガ・スミルノワ、セミョーン・チュージン、2016年1月)も上映される。ジョン・クランコの名振付で名高いシェイクスピア喜劇を、マイヨーがどのように料理しているか大いに楽しみ。
また、マリインスキー・バレエのバレエ・マスターでプティパの名作バレエを復元し上演したことで知られるセルゲイ・ヴィハレフ振付の『コッペリア』(シュライナー、アルチョム・オフチャレンコ、2018年6月)が上映される。そしてジョン・ノイマイヤー振付の『椿姫』(スヴェトラーナ・ザハーロワ、エドウィン・レヴァツォフ、2015年12月)、そしてボリショイ・バレエが独特の型を持つ『ジゼル』(ザハーロワ、セルゲイ・ポルーニン、2015年10月)『くるみ割り人形』(デニス・ロヂキン、アンナ・ニクリーナ、2014年12月)も上映される。
ロシア・バレエの不朽の名作と、ボリショイ・バレエの最近の話題作が次々と上映されるのはなかなか得難いチャンスである。
作品の詳細は https://liveviewing.jp/contents/bolshoi-cinema2017-18/
上映時間のご案内は http://www.bunkamura.co.jp/cinema/lineup/18_bolshoi.html

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「くるみ割り人形」©Pathe Live

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「ジゼル」©Pathe Live

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「パリの炎」©Pathe Live

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「コッペリア」©Pathe Live

ロシアン・セレブレーション in オーチャードホールでは、アレクサンドル・ラザレフ指揮、日本フィルハーモニー交響楽団によるチャイコフスキー、プロコフィエフ。「クラシック・ロシア by Pianos」は清水和音、阪田知樹、松田華音、藤田真央の演奏。横山幸雄「華麗なるロシア4大ピアノ協奏曲の饗宴」。熊川哲也 K-BALLET COMPANY『くるみ割り人形』。テオドール・クルレンツィス指揮ムジカエテルナ初来日公演などが2019年2月まで。シアターコクーンでは19年1月にはドストエフスキーの『罪と罰』(フィリップ・ブリーン演出、三浦春馬主演)。

また、1月27日までザ・ミュージアムでは国立トレチャコフ美術館所蔵展「ロマンティック・ロシア」。特に日本人に人気の高いクラムスコイの「忘れえぬ女(ひと)」ももちろん展示される。今回が6回目の来日になるという。
Bunkamura内のレストランやカフェでは、ロシアン・セレブレーションに合わせたスペシャル・メニューが用意されており、東急百貨店渋谷・本店ではロシアン・フェアも開催される予定だそうだ。

http://www.bunkamura.co.jp/orchard/lineup/18_classic_russia.html

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©Pathe Live
Japan agent dbi,Inc.

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「じゃじゃ馬ならし」©Pathe Live

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「椿姫」©Pathe Live

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