ロイヤルのプリンシパル二人とスカラ座アカデミーを迎えて、海外で踊るダンサーたちが華々しく踊った
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ワールドレポート/東京
関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi
Ballet Asteras 2018
バレエ・アステラス〜海外で活躍する日本人バレエダンサーを迎えて〜
「バレエ・アステラス 2018〜海外で活躍する日本人バレエダンサーを迎えて〜」は、今年が9回目の開催となった。この舞台で初めて見ることのできたダンサーも多く、彼らがさらに大きく羽ばたいて世界の舞台で活躍している、と耳にすることはとても嬉しい。そしてそうした期待を抱きながらの鑑賞は、また、一段と楽しいものだ。
今年は高田茜、平野亮一という日本が誇る英国ロイヤル・バレエの二人のプリンシパルを特別ゲストに迎え、イタリアはミラノ・スカラ座バレエ・アカデミーの生徒も参加、洒脱な舞台を披露した。公募によって選ばれた日本人ダンサーは7名だった。
「エスメラルダ」リンダ・ジュベッリ 撮影:瀬戸秀美
「エスメラルダ」リンダ・ジュベッリ 撮影:瀬戸秀美
「ケイク・ウォーク」 撮影:瀬戸秀美(すべて)
開幕は新国立劇場研修所所長でバレエ・アステラスの委員でもある牧阿佐美が振付けた『ケークウォーク』(音楽/ゴットシャルク、編曲/ハーシー・ケイ)で開幕した。これはルーツはアフリカ系の奴隷たちが踊ったもので、その後ヴォードヴィルなどを経て、ニュヨーク・シティ・バレエでバレエとして上演された。競技ダンスとして発展してきたルーツを想起させるステップが楽しい。研修所研修生と予科生が艶やかな赤い衣装で踊った。
続いてノーザン・バレエのファースト・ソリスト宮田彩末と同じジョセフ・テイラーは『夏の夜の夢』第2幕よりパ・ド・ドゥ。これはノーザン・バレエの芸術監督デイヴィッド・ニクソンOBEがメンデルスゾーンの曲に振付たもの。ニクソンはカナダ・ナショナル・バレエやドイツのバレエ団などで活躍した。解説によるとシェイクスピアの戯曲『真夏の夜の夢』をイギリスのツアー・カンパニーの話に移し替えたバレエだそうだ。振付はかなり大胆に身体を大きく動かし、高いリフトも駆使して力強い表現をみせた。華奢な宮田と逞しいテイラーの、その身体の違いが表現に活かされていた。宮田はモナコ王立プリンセスグレース・ダンス・アカデミー出身でイギリスを中心として活躍している。
『End of Eternity』はジュネーブ大劇場バレエ団プリンシパルの相澤優美とヴラディミール・イポリトフ(ジュネーブ・ダンス・イベント監督)が踊った。『End of Eternity』は、フィリップ・グラスの曲にサシャ・リヴァが振付けている。舞台背後に水を張った装置があり、スモークが立ち込めた中から男女のダンサーが現れて踊る。女性は白いトップとショーツ、男性は黒い衣装だった。男性自身の人生への想いが、永遠とは何か、永遠と限りある命、そして永遠との決別といった抽象的なモチーフが踊られた。女性は永遠を象徴しているのだという。踊りは真摯な力のこもったもので、緊張感はあった。ただ、快楽や美などの具象的に表し得るものについての表現も欲しいと思った。相澤は長野の白鳥バレエ学園出身で、ハンブルク・バレエ、ドレスデン国立歌劇場バレエ、ボルドー・オペラ座バレエなどヨーロッパで活動している。イポリトフはベルミのバレエ学校で学び、マリインスキー・バレエで踊っている。
バーミンガム・ロイヤル・バレエのファースト・ソリスト水谷実喜はプリンシパルのツーチャオ・チョウと『サタネラ』のパ・ド・ドゥを踊った。水谷のコケットリーがほどよい雰囲気を感じさせて、楽しい舞台となった。水谷はローザンヌ・コンクールのスカラシップを受け、ENBのスクールで学びバーミンガム・ロイヤル・バレエに入団。BRB日本公演でも『眠れる森の美女』のオーロラ姫を踊った。
英国ロイヤル・バレエ団のソリスト同士マヤラ・マグリとアクリ瑠嘉は、マクミラン/プロコフィエフの『ロミオとジュリエット』よりバルコニーのパ・ド・ドゥを披露。ブラジル出身でローザンヌ・コンクールのグランプリを受賞したマグリの若々しく伸びやかな肢体と、アクリの力強い安定感のある踊りが見事だった。マグリはフォンテーンを想い起こさせるところもある黒髪に明眸。ドラマティックな表現に優れた能力を発揮しそうな雰囲気のあるロイヤル・スタイルに似合ったダンサーだ。二人は大きな喝采を浴びた。
「ロミオとジュリエット」マヤラ・マグリ、アクリ瑠嘉
「ロミオとジュリエット」マヤラ・マグリ、アクリ瑠嘉
続いてボリショイ・バレエの二人。ボリショイ・バレエ・アカデミー在学中からボリショイの舞台に立っていて、昨年、卒業・入団したばかりのスタニスラヴァ・ポストノーヴァ。そして昨年、ボリショイ・バレエに入団し、かつての名ダンサー、ヴェトロフの指導を受けている千野円句が『ジぜル』第2幕よりパ・ド・ドゥを踊った。ボリショイ・バレエの『ジゼル』には伝統的に築き上げられてきた完璧な型があるのだが、まるでお人形さんそのもののポストノーヴァと清新な身体性を持つ千野円句が、若く瑞々しい感覚を漲らせて踊った。
「ジゼル」スタニスラヴァ・ポストノーヴァ、千野円句
「ジゼル」スタニスラヴァ・ポストノーヴァ、千野円句
『海賊』の寝室のパ・ド・ドゥは、ペンシルベニア・バレエのソリスト、伊勢田由香とエドガー・チャン(元バレエ・カルメン・ロッチェ)。ドレスデン国立歌劇場バレエ、ノルウェー国立バレエ、アンへル・コレーラのバルセロナ・バレエ団ほか、多くのカンパニーで踊り、慶應義塾仏文科卒というキャリアをもつ伊勢田は、落ち着いた踊り。喜びにあふれたメドーラを踊って魅せた。
トゥールーズ・キャピトル・バレエ団の小笠原由紀と同じくソリストのルスラン・サブデノフは『ノクターン』。ドレスデン国立歌劇場バレエなどで踊った小笠原は2013年のこの公演では『海賊』を踊ったが、今回はレオニード・デシャトニコフ音楽、アレクセイ・ミロシニシェンコ振付というロシア人によるコンテンポラリー・ダンスを披露した。パートナーはカザフスタン出身でペルミ・バレエ団などで踊ったサブデノフ。男性と女性の愛し合う関係の中の様々な局面を描いている。まるでエイフマン・バレエのダンサーのように身体の可動域を目一杯使い、リフトを多用してダイナミックな表現を作った。ロシア人の身体能力に対する挑戦のような作品だった。
トリはもちろん、英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパル・コンビ、高田茜と平野亮一。演目はグラズノフ作曲の『ライモンダ』第3幕のマズルカに、気鋭の若手振付家リアム・スカーレットが振付、エリザベス女王在位60周年ガラ公演でお披露目された『ジュビリー・パ・ド・ドゥ』。初演はモレーラとボネッリが踊っている。
スカーレットは未だ30歳を過ぎたばかりだが、古典バレエに対して節度のある態度で臨む振付家。それは今年5月、スカーレットが31年ぶりに追加振付・演出を行った『白鳥の湖』を見ればよくわかる。『ジュビリー・パ・ド・ドゥ』も古典バレエへの敬意を持って、ロイヤル・スタイルを発展させようとするスカーレットらしい作品だった。濃い藍の色調の衣装を纏った高田と平野の堂々とした、スケールの大きな踊りが深く美しい情感を観客に伝えた。
(2018年7月28日 新国立劇場 オペラパレス)
「ジュビリー・パ・ド・ドゥ」高田茜、平野亮一
「ジュビリー・パ・ド・ドゥ」高田茜、平野亮一
カーテンコール 撮影:瀬戸秀美(すべて)