気鋭の振付家、リアム・スカーレットが31年ぶりに『白鳥の湖』を新演出した! 英国ロイヤル・オペラ・ハウス2017/18シネマシーズン最後の上映

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

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© ROH, 2018. Ph. by Bill Cooper

英国ロイヤル・バレエが31年ぶりに新演出の『白鳥の湖』を上演した。プティパ/イワノフの振付に基づいて、アンソニー・ダウエルが演出したものが30年以上経過して、新しいジェネレーションのスタッフが作り、新たなダンサーたちが踊る舞台が必要だ(ケビン・オヘア芸術監督)として、新演出により制作された。衣装だけでも370着というハリウッド映画並みの大規模な新制作だが、新演出は、ロイヤル・バレエの若い世代の旗手、弱冠31歳のリアム・スカーレットに委ねられた。そして英国ロイヤル・オペラ・ハウス2017/18シーズンの最後の上映は、このリアム・スカーレット版『白鳥の湖』である。

オデット/オディールを踊るのはマリアネラ・ヌニェス、ジークフリート王子はワディム・ムンタギロフ。女王の側近でもあるロットバルトにはベネット・ガートサイド。ジークフリートの友人のベンノにはアレクサンダー・キャンベル、新しい役のジークフリートの妹には高田茜とフランチェスカ・ヘイワードが扮している。
リアム・スカーレットは「登場人物をリアルに描くこと、それによっておとぎ話の世界が真実味を持つように」と新演出の趣旨を語る。3年がかりで舞台美術と衣装を手がけたのは、スコットランドの画家、ジョン・マクファーレン。『フランケンシュタイン』『不安の時代』などでマクファーレントと組んだスカーレットは、彼が美術を担当することを演出を引き受ける条件にしたほどの信頼を寄せている。

スカーレット版『白鳥の湖』は、オデットがロットバルトによって白鳥に変身させられるプロローグが付く。そして第一幕から、貴族の服装をしたロットバルトが女王の側近として、存在感をみせて闊歩している。ジークフリート王子は女王と側近には馴染めない様子で、友人のベンノはしきりに気を使っている。王子は女王から結婚するように命じられるが、それもどうや側近の意向でもあるようだ。

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© ROH, 2018. Ph. by Bill Cooper

しかし王子は、誕生祝いにプレゼントされた白鳥を狩る弓を手にすると、不思議な感覚を覚える。この弓が新しい出会いに導いてくれるのではないか、という予感をもたらしたからだ。一方、ロットバルトは王子の持つ弓に異様な反応をみせる。なにやら魔術的な雰囲気が漂ううちに、王子が佇む王宮の庭はいつしか満月が怪しく輝く湖畔へと変貌していた。この転換は物語が王子の意識の世界に入っていくかのようで、なかなか見ごたえがあった。弓は武器として、王位を継承すればロットバルトが敵となる存在であることを知っているかのようでもある。
高田茜はジークフリート王子の妹役でフランチェスカ・ヘイワードと共に、ベンノ役のアレクサンダー・キャンベルとパ・ド・トロワを踊り、華やかに宮廷の宴を彩った。金子扶生もワルツに出演している。
2幕では、ダウエル版も踊っているヌニェスは堂々と踊り、マイムもはっきりと演じていた。そしてロットバルトは悪魔の姿となって、ジークフリートとオデットの出会いを監視する。
3幕は豪華な王宮で、ここでも高田とヘイワード、キャンベルが踊って、ジークフリート王子の花嫁を決める儀式が始まるのだが、ロットバルトがすべてを仕切っている。スペインの王女(イッツィアール・メンディザバル)、ハンガリーの王女(メリッサ・ハミルトン)、イタリアの王女(崔 由姫)、ポーランドの王女(ベアトリス・スティックス=ブルネル)が登場するが、オデットに心を奪われているジークフリート王子は婚約を断る。すると、ロットバルトはオデットにそっくりのオディールを王子に引き合わせ心を撹乱する。
若く王位継承の重荷に不安抱き、純真に愛を求めるジークフリート王子は、ロットバルトに手玉に取られる。王宮は大混乱となり、ロットバルトは女王の冠までも奪う。
そして4幕では、オデットとジークフリートの愛の宿命がこの物語に一つの結末を与える。

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© ROH, 2018. Ph. by Bill Cooper

リアム・スカーレットは、古典名作の改定に節度を持って取り組み、新演出を行っている。悪魔、ロットバルトの存在に現実感を持たせ、ジークフリート王子の意識に強く迫り、オデットとの愛の力とドラマティックにせめぎ合う。なかなか迫力のある演出で、ジークフリート王子の深層心理に迫っている。そしてスカーレットは、それはチャイコフスキーの楽譜の中にあるもの、と言う。

それにしても、アシュトン、マクミラン亡き後には、クリストファー・ウィールドンやリアム・スカーレットが育ち、大いに活躍する・・・。われわれは英国ロイヤル・バレエ団に嫉妬するほかない。

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© ROH, 2018. Ph. by Bill Cooper

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© ROH, 2018. Ph. by Bill Cooper

2018年8月24日(金)より TOHOシネマズ 日比谷、日本橋ほか、全国順次公開
※ディノスシネマズ札幌劇場、フォーラム仙台、中洲大洋映画劇場でも公開いたしますが、公開日が異なります。詳しくは公式サイトをご確認ください。
http://tohotowa.co.jp/roh/

 

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