島添亮子の見事なバランスとテューズリーの安定感のある踊り

ワールドレポート/東京

佐藤 円
text by Madoka Sato

小林紀子:演出・再振付『くるみ割り人形』

小林紀子バレエ・シアター

小林紀子バレエシアターの年末恒例公演「くるみ割り人形」の初日を鑑賞した。主演はプリンシパルの島添亮子とゲストプリンシパルでイギリス人のロバート・テューズリーのコンビ。近年よく踊っている組み合わせである。

一幕、序曲の終わりとともに幕が上がる。雪のなか屋敷の前に客人が次々と訪れる。最後の客人は中尾充宏演じるドロッセルマイヤーだ。彼は黒いえんび服にシルクハットという装いで魔法使いのような怪しさがある。屋敷に入る前、観客にさりげなくくるみ割人形を見せ、これから起こることを暗示させていた。
場面は客間に移る。クララの友人達とその親が集まるクリスマスパーティ。ドロッセルマイヤーがバネ仕掛けの等身大の人形の踊りを子供たちに見せるというおなじみの構成。ピエロ人形、ムーア人形ともに人形らしい関節をわざと固く使う動きで際立っていたのはピエレッタ人形を演じた真野琴絵。安定したポワントワークで人形になりきって踊った。

休憩の後、二幕お菓子の国では、クララが一人で椅子に座り、踊りを鑑賞するような構成であった。金平糖の精の島添亮子は出てきただけで風格を感じさせる。彼女の合図とともにスペインの踊りがはじまった。

小林紀子バレエ・シアター 『くるみ割り人形』全幕 金平糖の精:島添亮子 photograph by Kenichi Tomohiro

衣裳は白と黒のコンビネーション。女性と男性のパ・ド・ドゥで、バレエ的というよりスペイン色の強い大人っぽい振付になっていた。
特に客席を魅了したのが、アラブを踊った大森結城。玉虫色のアラブパンツにおへそを出したセクシーなスタイル。4人の女性が扱うベールの上でエキゾチックに踊る姿は美しく怪しい。滑らかな動きにキャリアを感じさせた。
中国の踊りも男女のパ・ド・ドゥであった。男性は絶えずジャンプをしている振付で脚力が要求されたが、最後まで力強く飛んでいた。
マラトンズ(葦ぶえ)はサーモンピンクが華やかなクラシックチュチュの女性三人。センターを務めた真野琴絵がまたして安定したテクニックと華やかさで目立っていた。
ロシアは女性二人と男性一人の三人。こちらも男性の脚力が要求される振付であった。
日本のバレエ団特有のマダムバウンティフル。大きなスカートの中から子供たちが次々と現れる。この演出はクリスマスのプレゼントを楽しみにしている子供たちの楽しくわくわくする気持ちをよく表わしている。子供たちはここでも舞台をかけずり回り楽しんでいた。

小林紀子バレエ・シアター 『くるみ割り人形』全幕 金平糖の精:島添亮子 王子:ロバート・テューズリー photograph by Kenichi Tomohiro

花のワルツの最後に、金平糖の精とくるみ割り人形の王子が登場する。ロバート・テューズリーは白いジャケットに金の飾りが施された衣裳で、ピンクの衣裳の金平糖の精と並ぶとキラキラと輝かしい。テクニック的に、前半のゆっくりとした動きから後半の早い動きが難しいパ・ド・ドゥだが、ベテランの二人は非常に安定していて、一つ一つのパが丁寧で美しく、安心して見ることができた。特にテューズリーの足のラインの美しさ、島添の揺るがないバランスが印象的だった。彼らの相性の良さと、技術力の高さを感じる踊り、実力のある二人なだけに、安全策をとらずにもっと高度な技術を見せてほしいと思うのはぜいたくだろうか。

全体としては、踊り手の実力に見合った無理のない振付が心地よく、構成もきっちりとまとまっていて、バレエを見慣れた大人も、夢を抱いて見に来ていた子供も満足ができる温かい舞台であった。また来年に期待したい。
(2009年12月26日 メルパルクホール)

photograph by Kenichi Tomohiro

ページの先頭へ戻る