飴屋演出による黒田育世 獅子奮迅のソロ
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掲載
ワールドレポート/東京
- 関口 紘一
- text by Koichi Sekiguchi
黒田育世 振付、飴屋法水 演出『ソコバケツノソコ』
黒田育世、BATIK
黒田育世の出演、振付、飴屋法水の演出による『ソコバケツノソコ』は、黒田の格闘技とも見まがうほどの獅子奮迅のソロだった。
舞台の中央に踊りながら何回か出入りするブラックホールがあり、床に白墨で円や四角が無造作にかいてある。
黒田は姿を現すと、オールスタンディングの会場を一回りする。すると天井からたくさんの履き古しの様々な靴がばたばたと一気に落下してくる。衣裳のスタンドが持ち込まれ、衣裳を着替え靴を履き替えたりするなどしつつ黒田は激しくまるで何かに憑かれたように動き回る。
いつも泣いていて云々、大きな小人の話、夢に入っていくこと、北斗七星の柄杓で水を汲む、バレエを習っていた頃のこと、熊がでてきた話、などの逸話が様々な表現で語られ、その間、黒田の凄絶な踊りというかのたうち回りが展開する。
足首にカタックのようないくつかの鈴をつけたり、ベリーダンスに使われるフィンガー・シンバルなどの鳴りものを使ったり、床に散乱する靴を投げたり履いたり並べたり、いつのまにかほぼ原寸の熊の彫り物が舞台にのそっと立っていたのにはびっくり。なかなか効果的な登場だった。パワフルな音響も飴屋の手になるもの。
誰しもが取扱かねる幼い頃に形成された魂を抱えて、コントロールしながら生きて行かなければならない。幼い頃に経験した不思議な出来事が、身体には抜きがたく棲みついていて、「こんな体」や「あんな体」を支配している。
いつもながら黒田のダンスは圧巻で、ケレン味などまったくなく包み隠さず自分のすべてを曝け出す。じつに魅力的なコンテンポラリーな舞踊家である。今回の舞台は飴屋が演出しているからか、パフォーマンスに集中していたと見えた。この熱いエネルギーを秘めた舞踊家の「次」にも大いに期待しようと思う。
(2010年1月16日 シアター・トラム)
photo by Yohta Kataoka