中村恩恵、首藤康之、青木尚哉がインスタレーションと踊った

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

中村恩恵 振付、佐藤恵子 美術『時の庭』(世界初演)

首藤康之、中村恩恵、青木尚哉 出演 アート・コンプレックス2009

神奈川県民ホールは様々なジャンルのアーティストが出会い、新たな表現を生み出す場を「アート・コンプレックス」と名付けて、毎年、自由なアートを紹介するイベントを開催している。
今回は、首藤康之がオランダでで活動している佐藤恵子の作品に触発されて、構想を育ててきた企画が実現した。振付は、キリアンのもとネザーランド・ダンス・シアターなどで活躍してきた中村恩恵。中村、首藤とともに元Noismの青木尚哉が踊った。

階段の折り返しがそのまま剥き出しの地下1階のロビー、太い柱が二本見える。フロアのあちこちに切り取られた木の根株があり、その切り取られた切り口から幹の空白の円柱部分を天井まで白い糸の幹が延長されている。
また家庭用品の器の破片や使い古した電池あるいは廃材などの文明の残骸がオブジェとされて、日本初公開の佐藤恵子のインスタレーションは構成されている。つまり樹木は伐採され、日用品は捨てられていて、自然にながれるはずの時間が変形してしまった「時の庭」が姿を現わしている。
幹の空白部を表す白い糸の円柱が様々に変化する光を映して微妙な濃淡をみせ、じつに美しかった。時には静かに煙が立ち昇っているかに見え、あるいはまた天の川のようにも感じられた。それはまた劇中で朗読されて谺するエミリ・ディキンスンの詩句の叙情にも通底するのだろう。

アート・コンプレックス2009「時の庭」 photo:MITSUO

現実の時ともうひとつあったはずの時が空間で錯綜する「時の庭」に、孤独な男が彼自身の影と共に現れる。時空が乱れた世界にいる影は、異なった次元からも孤独な男の存在を写す。孤独な男は、家庭や母性をそなえた女と出会い、別れて再び出会う。男は影と葛藤しやり合って失われた時間へと迷い込んでしまう・・・。
インスタレーションがほとんどの空間を構成していて、フロアには細かい砂も撒かれている。踊るスペースが非常に限られたものとなり、ダンスを振付けるのには苦労したのではないだろうか。しかし、インスタレーション自体は繊細に配慮されていて、じつに素敵だった。
(2010年1月11日 神奈川県民ホールギャラリー)

photo:MITSUO

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