<ドレスデンのギエム>の素晴らしい身体がかがやいた
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掲載
ワールドレポート/東京
- 関口 紘一
- text by Koichi Sekiguchi
Jiri+Otto Bubenicek the Dresden SemperOper Ballet
ブベニチェクとドレスデン国立歌劇場バレエ団の俊英たち
Bbenicek : Unerreichbrare, Les Souffle de I'Esprit
Forthythe} Steptext
イリ・ブベニチェク『辿り着けない場所』『ル・スフル・ドゥ・エスプリ』
ウィリアム・フォーサイス『ステップテクスト』
「ブベニチェクとドレスデン国立歌劇場バレエ団の俊英たち」という公演が彩の国さいたま芸術劇場で行われた。イリ・ブベニチェクはヨーロッパでもトゥーループを組んで公演を行っている。以前来日した時は、パリ・オペラ座のマリ=アニエス・ジロたちと一座を組んでいた。しかし、今回はなにやら急遽来日したという印象である。
3演目のプログラムを組んでいて、ブベニチェク振付の2作品と、フォーサイスの『ステップテクスト』のドレスデン歌劇場のために振付けた特別ヴァージョンを上演した。
まずは、ブベニチェク振付の『辿り着かない場所』。音楽は双児の兄のオットーの曲で、2005年にハンブルク・バレエ団で初演した作品である。
冒頭は、3組のカップルが下半身を大きく床に広がる黒い布で固定されたシーン。独特のボリュームのあるヴィジュアルで見応えはあるが、この情景とタイトルの組み合わせが、少々、平凡というか常識的に感じられてしまわなくもない。それぞれのダンサーのプロポーションはシャープでスリム、キレがあり無駄がない。
ただ、冒頭のイメージにとらわれているわけではないだろうが、ステップがあまり機能していない。愛の物語にしては喜びの躍動が語られることはなく、ネガティヴな愛の不在を語ることに作者の関心が偏っている。まずステップを解放しなければ、観客はストレスを感じるし、辿り着く場所もないのではないか、と思われた。
続いて上演されたフォーサイスの『ステップテクスト』は見事。こちらはタイトルからしてステップに眼目を置いている。そしてここには、「愛」も「旅」も「終り」も「溜息」もない。あるのは断絶と連続、光と影、動きと停止だけ。しかしその非連続と鋭利なコントラストが、まことに正確に、まるで医療機器が脳をスライスした映像のように、現実そのものを観客に見せている。この冷徹な現実を背景とした動きをダンスと呼ぶとすれば、ノイマイヤー風の情感から発生しているブベニチェクの舞台とは、明らかに異質の美しさが私には感じられた。
それはまた、ドレスデンのシルヴィ・ギエムといわれるエレナ・ヴォストロティナの身体が、造物主の意図を越えたような輝きをみせたからだったのか。
3曲目はやはりブベニチェク振付の『ル・スフル・ドゥ・エスプリ----魂の溜息----』。2007年にチューリッヒ・バレエ団が初演したもの。
音楽はパッヘルベルの『カノン』、バッハの『G線上のアリア』、オットーの曲、他を使っている。
ハンブルクでの公演のために、その死を知らず、さよならを言うことができなかった二人の祖母に捧げられた作品だそうだ。背景にダ・ヴィンチの絵を映して、淡いブルーと白の衣裳を着けて、魂の世界を想起させるかのような雰囲気の中で、ダンサーたちが踊った。
舞台のヴィジュアルは優れてデザイン的で美しいし、古典的な素材のとりあげ方も似ているので、ノイマイヤー風の仕上がりのダンス、といったら失礼だろうか。
(2010年1月23日 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール)