厚木三杏とウヴァーロフが踊った新春の『白鳥の湖』
- ワールドレポート
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掲載
ワールドレポート/東京
- 佐々木 三重子
- text by Mieko Sasaki
牧阿佐美 演出・改訂振付『白鳥の湖』
新国立劇場バレエ団
今を時めくバレリーナ、スヴェトラーナ・ザハロワとベテランのアンドレイ・ウヴァーロフの主演で幕が開くはずだった新国立劇場の新春『白鳥の湖』公演。ところがザハロワは体調が思わしくなく、降板するという番狂わせが生じた。かなり間際の決定だったようだが、初日は厚木三杏の代演でとにかく乗り切った。王子役は予定通りウヴァーロフ。無理を押して出演してケガでもされたら大変だが、「体調不良」という曖昧な理由では釈然としないものを感じたのも事実。それだけザハロワへの期待が大きかったからである。
急きょペアを組むことになった厚木とウヴァーロフだが、二人ともすらりとした長身で、見たところ釣り合いは良い。けれど、立ち姿は言うまでもなく、跳躍や回転、ちょっとした仕草にもダンスール・ノーブルとしての優雅さが匂い立つウヴァーロフと向き合うと、厚木はいかにも硬質に映る。直線的なラインだけでなく、もっと曲線的なたおやかさが出せればと思う。王子との出会いの場では、手首から先の表情に癖があって不自然に見えたし、オデットやオディールの心の動きの表現はまだ型どおり。これは、相手がウヴァーロフだったから感じたことだろうか。それにしても、ウヴァーロフはサポートが巧みなようで、厚木の胴に軽く回した片手で彼女を支え、軽やかにリフトするなど、相手を美しく引き立てた。
また、脇にいても舞台全体への目配りを忘れないのもさすが。厚木にザハロワの品格を求めはしないが、今回の共演を振り返ってみると、ウヴァーロフとの芸術性の違い、伝統の差を感じないわけにはいかない。ただ、厚木にとっては学ぶことが多かったはずで、これを活かして芸に磨きをかけて欲しいと思う。
上演したのは、牧阿佐美がセルゲーエフ版を基に改訂した版(2006年初演)。ロートバルトがオデットを白鳥に変えるプロローグを加えて物語をわかりやすくし、全4幕を2幕仕立てにしてスピーディーな進行を図っているが、ドラマを劇的に盛り上げるような演出はしていない。例えば第3幕の舞踏会の場では、ロートバルトの存在を特に強調することなく、各国の民族舞踊が次々に披露されるだけで、ドラマは途切れてしまったように感じた。牧が復活させたルースカヤも、どこからともなくダンサーが現れ去っていくといった具合だ。それでも第3幕は多彩な踊りで楽しませるが、第4幕は少々物足りない。ロートバルトと王子たちとの戦いを華々しく描くことは好まなかったのだろうが、割合あっさり味付けされていたため、ロートバルトに打ち勝った喜びも淡泊に思えた次第だ。ダンスでは、マイレン・トレウバエフがパ・ド・トロワでしなやかな跳躍や開脚を見せ、道化の八幡顕光が律動的にピルエットをこなし、湯川麻美子が流れるようにルースカヤを踊った。
なお、今回はザハロワが3公演に出演し、ほかの3公演を小野絢子、厚木、さいとう美帆が1回ずつ踊ることになっていた。その代演を厚木が2回、川村真樹が1回務めるよう割り振られたため、結局、厚木が3回も踊ることになった。色々な点を考慮した結果とは思うが、厚木にはもっと他の役が合っていそうにみえたこともあり、これが最善だったかどうかは分からない。
(2010年1月17日 新国立劇場 オペラ劇場)
撮影:瀬戸秀美