音楽と光とダンスが織り成すローザス『ツァイトゥング』
- ワールドレポート
- 東京
掲載
ワールドレポート/東京
- 関口 紘一
- text by Koichi Sekiguchi
Anne Teresa De Keesmaeker/Rosas " Zeitug "
アンヌ・テレサ・ドゥ・ケースマイケル /ローザス『ツァイトゥング』
舞台下手奥にグランド・ピアノが1台。袖には椅子が数脚ランダムに置かれ、壁面に剥き出しのドアが据え付けられ、幅広いベルト状の黒いリノリュウムがフロアを横切っている。舞台上空にはネオンライトのバーが3方から吊るされている。
スタジオのリハーサルのようにダンスが踊り始められる。ダンサーたちは稽古着ではなく、ワンピースやスーツといった日常生活の衣裳だった。
音楽は J.S.バッハ、A.ヴェーベルン、A.シェーンベルクが使われている。アラン・フランコがピアノ部分は演奏し、管弦楽曲はスイッチを操作して音を出すが、無音がしばらく続く時もあった。
一人のダンサーの即興的な動きを次のダンサーが受け継いだり、シンクロしたり、トリオになったり群舞に発展したり、と様々に展開にする。音楽はダンスと並行して流れお互いに接近したり、あるいは途切れたりするが、クロスすることはない。同様に一定方向から照らされる光の面を微妙に交錯させて構成された照明も併行して、独自の変化を続けていた。
次第にダンサーの動きがグループとなって、ダンサ−9人全員がひとつの塊となってほの暗い空間で身体を擦り合うように蠢き、舞台は暗転する。ここが音楽とダンスと光の流れがニアミスした時、ということなのだろうか。
ダンスの出入りや入れ代わりや転換、柔らかなスピードの変化など、やはりアンヌ・テレサならではの女性的な繊細さが際立ち、ナチュラルな感覚が息づいていて魅力的だった。
音と光と動きは、生命の基本である。舞台に登場したダンサーたちは、もちろん、心理やドラマや感情を直接的に表すことはないが、繰り広げられたダンスが生きることそれ自体を表象している作品だった。
(2009年11月29日 彩の国さいたま芸術劇場大ホール)
Photo:(C)池上直哉