舞踊とドラマが自然に融合した素晴らしい『ライモンダ』、牧阿佐美バレヱ団

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

牧阿佐美バレヱ団

『ライモンダ』テリー・ウエストモーランド:演出・振付(マリウス・プティパによる)三谷恭三:改訂演出振付

英国ロイヤル・バレエやスウェーデン・ロイヤル・バレエなどで活躍したテリー・ウエストモーランドは、1979年、『ライモンダ』全3幕を牧阿佐美バレヱ団に初めて振付けた。彼はその後、牧阿佐美バレヱ団に『眠れる森の美女』『白鳥の湖』なども振付けているが、このウエストモーランド版は、日本で初めて上演された『ライモンダ』全幕だったのである。
そして今回の『ライモンダ』全幕上演は、牧阿佐美バレヱ団にとって10年ぶりの再演となった。キャストは、ライモンダは青山季可と日高有梨、ジャン・ド・ブリエンヌは清瀧千晴とラグワスレン・オトゴンニャム、アブデラクマンは菊地研と塚田渉だった。清瀧千晴、日髙有梨、ラグワスレン・オトゴンニャムはこの作品の主役を踊るのは初めてという。私は青山・清瀧・菊地というキャストで観ることができた。

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撮影/山廣康夫

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撮影/山廣康夫

プティパの晩年の傑作とされる『ライモンダ』は、全3幕のそれぞれの幕で踊られる舞踊のコントラストが、その幕のモティーフに応じてくっきりと踊られて表される。特にプティパの原典をよく研究しているウエストモーランド版は、それが明快である。1幕の宮廷舞踊、2幕のサラセンの踊り、スペイン風の踊り、マズルカとチャルダッシュなどスラブ系の民族舞踊、そして3幕のグラン・パ・クラシックに見られるような高潔な愛を格調高く謳う踊り----とりわけここには有名なライモンダの独特のステップが織り込まれており、明晰な印象を残す。
全幕を通して特徴的な踊りが、劇的シーンに応じて鮮烈に踊り分けられる。舞踊そのものがドラマと一体となって表されており、物語と舞踊が極めて自然に融合して舞台に現れている。クラシック・バレエによって、様々な舞踊を総合するような作品と言えるのではないだろうか。それが晩年のプティパが傾注したことであり、この『ライモンダ』の価値である。一時、ストーリーがシンプルで他愛ないなどと批判されたこともあったが、それはまた、見当違いな意見である。

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青山季可、清瀧千晴 撮影/鹿摩隆司

青山季可は少しほっそりとして見えたが、カンパニーのトップバレリーナとしての自覚が現れてきたように見える良い印象だった。清瀧もしっかりと踊ったが、おおらかな活力で刮目させてくれるのではないか、と思っていただけに少し残念な気持ち。次回は清瀧でなければ踊れない颯爽とした舞踊を期待したい。
美術(ボブ・リングウッド)や舞台幕もこれ見よがしのところはなく、ウエストモーランド版にふさわしいシックで落ち着いたものでとても良かった。全体に古風にまとまっており、舞踊劇的な骨格もしっかりしており、見ごたえがあった全3幕だった。
(2018年6月9日 文京シビックホール)

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撮影/山廣康夫

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撮影/山廣康夫

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撮影/山廣康夫

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日高有梨、ラグワスレン・オトゴンャム(6月10日公演)撮影/山廣康夫
(※日高有梨の「高」の字はただしくは「はしごだか」)

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