小野絢子のオーロラ姫と福岡雄大のデジレ王子のグラン・パ・ド・ドゥが素晴らしかった

ワールドレポート/東京

関口 紘一 Text by Koichi Sekiguchi

新国立劇場バレエ団

『眠れる森の美女』ウエイン・イーグリング:振付(マリウス・プティパ原振付による)

新国立劇場バレエ団は『眠れる森の美女』を再演した。キャストは米沢唯/井澤駿、小野絢子/福岡雄大、池田理沙子/奥村康祐、木村優里/渡邊峻郁の4組による5公演だった。
イーグリング版の『眠れる森の美女』は2014年に初演され、17年にも再演されている。前回の再演では米沢唯がオーロラ姫とカラボスを2回ずつ踊って、話題を呼んだ。今回はカラボスは前回も踊った本島美和と渡辺与布がキャスティングされていた。
このヴァージョンは冒頭に、リラの精(細田千晶)とカラボスが対決する図式を見せる。もともとプロローグを持つ作品にさらにプロローグ的なシーンを加えると、屋上屋を重ねると言うが、せっかく豪華なセレモニーが始まろうとしているのに、無理に図式的に説明を加えている様に感じられて、いささか興を削ぐ。

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撮影/鹿摩隆司

オーロラ姫を踊った小野絢子は、落ち着いて細やかな気の配り、全幕を通して安定感のある美しさが輝いていた。「ローズアダージョ」はほぼ完璧に踊りきって見事だったが、敢えていえば16歳の若さが自ずともつ好奇心がもっと表れても良いのではないか。観客に対してもお披露目となるのだから、生き生きとした気分をさらに表して欲しかった。確かに高貴な存在ではあるがバレエなのだから、少し控え目過ぎるような気がした。
第二幕から登場するデジレ王子は福岡雄大が踊った。切れもあり躍動感もある揺るぎない踊りだった。かといって大向こうを意識するようなところはなく、その洒脱な姿勢はよい。
そして圧巻は小野絢子オーロラ姫と福岡雄大のデジレ王子の息がぴったり合ったグラン・パ・ド・ドゥ。今日の日本の舞台を代表するパートナーシップと言えるだろう。華やかな化学反応をおこしたように輝いた。
第3幕のデヴェルティスマンではフロリナ王女の米沢唯、白猫を踊った益田裕子、親指トムの井澤駿がなど、のびのびと踊って好感が持てた。

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小野絢子 撮影/鹿摩隆司

イーグリング版は、第2幕のデジレ王子のソロヴァリエーション、100年の眠りを目覚めたオーロラ姫と愛する人と出会った喜びのを表す目覚めのパ・ド・ドゥ、トウシューズを履いて踊るカラボスなどが特徴となる。全体を通しては、カラボスとリラの精の対決感は強まったが、舞踊と音楽とドラマにより、この象徴性の高い物語世界の深奥を垣間見せるまでにはいたらなかった、と思われる。全体にマイムシーンが多く、ドラマ的展開よりも説明に終始していると感じられたところもあった。マイムは、物語を言葉で表すような説明としてではなく、音楽と同調するバレエマイムとして表してほしい。この辺りにも日本のクラシック・バレエの問題があるのかもしれない。指導者としては一考してもらいたいと思う。
(2018年6月10日 新国立劇場 オペラパレス)

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本島美和 撮影/鹿摩隆司

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福岡雄大 撮影/鹿摩隆司

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撮影/鹿摩隆司

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