次代を担う新進スター、スコーリクと完璧な踊りを見せたシクリャーロフの『白鳥の湖』
- ワールドレポート
- 東京
掲載
ワールドレポート/東京
- 関口 紘一
- text by Koichi Sekiguchi
The Mariinsuky Ballt マリインスキー・バレエ団
"Swan Lake" by Marius Petipa, Lev Ivanov, Revised choreography and stage direction by Konstantin Sergeyev
『白鳥の湖』マリウス・プテイパ、レフ・イワノフ:振付、コンスタンチン・セルゲイエフ:振付改訂・演出
マリインスキー・バレエ団の新進スターと紹介されているオクサーナ・スコーリクが日本主役デビューとなるオデット/オディールを踊る『白鳥の湖』を見た。
ジークフリート役はウラジーミル・シクリャーロフ、悪魔ロットバルトはコンスタンチン・スヴェレフ、道化はワシリー・トカチェンコだった。
スコーリクはウクライナのハリコフ生まれ、ペルミ国立舞踊学校をを卒業してマリインスキー・バレエに入団した。今年9月にファーストソリストに昇格したという。すっきりとした細身で強靭なしなやかさが客席からも感じられる。そしてその動きをみると明らかに抜きん出た運動神経の持ち主であることが分る。ただ少し緊張するのだろうか、2幕で登場してしばらくは、思うように身体が動かなかったのだろうか、ちょっと生硬な感じだった。大きさの異なる舞台で踊ることにもまだ、少し不慣れなようでポジションが上手くとれないところもあった。しかし、アダージオのソロヴァリエーションを踊るころには大分ほぐれたようで、滑らかな動きとなった。
撮影/瀬戸秀美
撮影/瀬戸秀美
3幕に入ると休憩を経て緊張もほぐれたのだろうか、断然、本来の力を発揮しはじめた。彼女自身は、オディールを踊るほうが難しい、とコメントしているが、なかなか演技も魅力的で思わず惹き込まれそうになる黒鳥だった。思うに、彼女が意識しているよりもその表現は効果が生まれているのではないか。彼女がいまだ表わせていないと思っている表現が、じつは舞台上では観客に伝わっている、そういう部分もあるいはあるのではないか、と思った。さらに大きくロパートキナのような舞台全体を、作品のクオリティをリードするようなプリンシパル・ダンサーに成長して欲しい。
シクリャーロフはもう余裕の踊り。新進の若手ダンサーのパートナーとして、一枚上をゆく踊りをみせた。自身のダンスのテクニックを際立たせるばかりではなく、パートナーをも美しく見せる技を心得ている。あまり身体の変化の大きくない方だと思うが、青年から大人の身体を感じさせる存在となり、ダンサーとしての頂点を昇りつつあるようだ。
『白鳥の湖』のエンディングは、悲劇でなければ詩情が失われるなどと批判する向きもあるが、どうだろうか。むしろエンディングに至るまでの表現が優れていれば、そのことについてだけ論じるのは適切だとは思われない。作品は全体をまず、みるべきではなか、とマリンスキー・バレエのセルゲイエフのヴァージョンを観て思った。
(2012年11月17日 文京シビックホール)
撮影/瀬戸秀美