森山開次が創った繊細にして大胆な造型による鮮烈空間幻想

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

新国立劇場

『曼荼羅の宇宙』森山開次:演出・振付・美術

新国立劇場の2012-13のシーズンのダンスとして、森山開次の新作『曼荼羅の宇宙』が5日間6公演行われた。森山は和を素材としたダンスで注目され、新国立劇場では、『弱法師』(2003)『OKINA』(04)、その後09年には『狂ひそうろふ』を創っている。ヴェネチア・ヴィエンナーレ出品やアジア・ツアーなど海外での公演活動も多い。今回は2009年以来の新国立劇場の新作上演である。

第一部は『書』と題され、柳本雅寛、佐藤洋介、龍美、東海林靖志、三浦勇太の5人の男性ダンサーが森山の振付を踊った。
中央に一人がうずくまり、その四方でダンサーが踊る、という構図が中心となっていたが、様々のおもしろいフォーメーションをおおよそ同じようなリズムで描いた。一字ずつ完結する書をダンサーたちが描いていく、ということでの書というタイトルが付けられていたのだろうか。一字ずつを描くという作業の中ではダンスの時間があるが、それが積み重ねられる第1部全体が経過していく時間が、同じようなリズムに感じられた。「書」を仕上げるリズムをどのように表すか、この作品のひとつのポイントだろうと思った。これがおそらく身体の軌跡によって表される胎蔵界の現象の世界だろう。身体が自在に図形を創って、その残像が自ずと曼荼羅を観客の脳裏に描いたろうか。
第二部は「虚空」と題された森山開次のソロ。
舞台中央に大きなボックスのような台を設え、背後に細い生命を表す赤い線で描いた日輪とその光背が浮かぶ。これがなかなか繊細な造型だが強烈な印象を与える。白い大きな襟が付き腰のあたりが複雑に重なり、赤い帯が後ろから垂れている衣装の森山が、暗黒の中から浮かび上がった。インドの諸神を招く儀式を表したもののようだ。

撮影/鹿摩隆司

撮影/鹿摩隆司

床を踏み鳴らし全身をくねらせて踊る。音楽はボックスの前に置かれたピアノ。国際的なコラボレーションも多い高木正勝のピアノ演奏だけ。単音の連なるシンプルなものだったが、かえって空想を超える大きな空間をイメージさせた。このシーンがいわば金剛界で精神世界を表すのだろう。
かなり思い切った造形のセットによって、宙空の中で踊っている効果を狙い、照明を様々に駆使して、異次元的な空間幻想を作った。今日的な作品らしくヴィジュアルは良くできていて、観客を森山の世界に惹きつけるには充分だった。
ただダンスとしてヴィジュアルのイメージと一体となった動きと、動きそのものをどう捉えるか、森山自身の動きのボキャブラリーについては種々意見があるかもしれない。
いずれにせよ、アジアの豊穣な思想に共感をもった森山は優れたイメージを提出したのである。
(2012年10月19日 新国立劇場 小劇場)

撮影/鹿摩隆司

撮影/鹿摩隆司

撮影/鹿摩隆司

撮影/鹿摩隆司

撮影/鹿摩隆司

撮影/鹿摩隆司

撮影/鹿摩隆司

撮影/鹿摩隆司

撮影/鹿摩隆司

撮影/鹿摩隆司

撮影/鹿摩隆司

撮影/鹿摩隆司

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