インドネシアの伝統と身体に触発された北村明子の『To Belong〜Dialogue〜』

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

インドネシア×日本 国際共同制作 

『To Belong〜Dialogue〜』北村明子 振付.演出

北村明子の『To Belong〜Dialogue〜』は、今年3月の東京でのワーク・イン・プログレスを経て、ジャカルタ、サリハラ劇場で4月に初演。このシアタートラムが国内初演となるインドネシアと日本の共同制作作品である。
かねてからインドネシアの伝統武術プンチャック・シラットを学んでいた北村は、そのダンサンブルとも言うべき独特の動きに魅せられ、インドネシアを通してアジアの身体性に関心持った。そして二年前、インドネシアにリサーチに出かけた時に、スラマッド・グンドノというアーティストと出会った。彼はインドネシアの伝統芸術であるワヤン(人形影絵劇)のダラン(人形遣い)であり、作曲家、パフォーマーとして人形ばかりでなく木や石、水などを介して観客と対話するという。このグンドノのパフォーマンスに触発されて創られたのが『To Belong〜Dialogue〜』だ。

出演ダンサーは、北村を始めインドネシアのマルチナス・ミロトとリアント、コンドルズでも踊り、最近はカナダなどで活動している今津雅晴、山東瑠璃、西山友貴。ワーク・イン・プログレスやジャカルタ公演のメンバーに、今回また新しいダンサーが加わった。

三方におそらくワヤンで使われるであろう白い布のスクリーンを帯状(ダンサーの出入り口も作られている)に垂らした舞台。北村とミロトの出会いから始まった。インドネシアの言葉と所作で語りかけるミロトと、言葉の意味そのものをではないなにかを感受し彼女も動く。
舞台三方の背景には、インドネシアの土地に伝わる話や歌に基づいた即興の物語を、人形やオブジェやギターのような楽器を使って、至極楽しそうに語り演じるグンドノ自身とその姿をイラストで描いた映像。なにやら何百年もここに棲む土地の主ようなユーモラスな存在感がある。
グンドノは歌い、語り、演じる。そのモティーフは母。幼い頃、毎日毎日、遊びに出ては帰ってくると優しく迎えてくれていた母が、ある日突然、亡くなった、というもの。極めてシンプルで普遍的なストーリーだ。
その映像を背景に踊られるダンスは、ごくおおざっぱに言えば、インドネシアの伝統的舞踊の動きとコンテンポラリー・ダンスの動きをミックスしたもの。インドネシア国立芸術大学の舞踊科を卒業し、ジャワ古典舞踊や女形舞踊が得意だというリアントと今津雅晴の長いデュエットがおもしろかった。リアントの柔らかく軽ろやかな動きが今津の力感のあるダンスと、コントラストをなしながら一体感を作りだして見応えがあった。
昨年の韓国の振付コンクールで銀賞を受賞したというミロトの、ダンサーとして指先や足の先端への神経が伝わるリズムが独特のダンスが、日本人のダンサーと同じ振りを踊った時にニュアンスの違いが現れる。この『To Belong〜Dialogue〜』は、今後、複数年をかけて日本国内、インドネシア、そのほかの都市で上演しつつ育てていくそうだ。さらに上演を重ねていくと、上記の違いにもまた、変化が現れてくのかも知れない。このように長期間かけてしっくりと国際共同制作に取り組むことは、たいへん意義深いことだと思う。
結局、母を失った子どもたちが様々な人間を含むもの(生命)と対話するうちに、メタフィジックな世界へと至り、見えざるものと対話し、心の平安を取り戻していく、というストリーが全体背景となっている作品だった。
(2012年9月21日 シアタートラム)

撮影/服部貴康

撮影/服部貴康

撮影/服部貴康

撮影/服部貴康

撮影/服部貴康

撮影/服部貴康

インドネシアの伝統と身体に触発された北村明子の『To Belong〜Dialogue〜』

インドネシアの伝統と身体に触発された北村明子の『To Belong〜Dialogue〜』

インドネシアの伝統と身体に触発された北村明子の『To Belong〜Dialogue〜』

インドネシアの伝統と身体に触発された北村明子の『To Belong〜Dialogue〜』

インドネシアの伝統と身体に触発された北村明子の『To Belong〜Dialogue〜』

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