松岡梨絵、遅沢佑介、スチュワート・キャシディの好演が光った『真夏の夜の夢』

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

K バレエ カンパニー

Triple Bill
サー・フレデリック・アシュトン振付『ラプソディ』『真夏の夜の夢』、熊川哲也 振付『ヴォルフガング』

K バレエ カンパニーのトリプル・ビルは、アシュトン振付『ラプソディ』、熊川哲也振付『ヴォルフガング』、アシュトン振付『真夏の夜の夢』だった。
まず『ラプソディ』は、ラフマニノフの『パガニーニの主題によるピアノとオーケストラのためのラプソディ』を使って、1980年にアシュトンがエリザベス皇太后の80歳の誕生日を祝して振付けたももので、初演はミハイル・バリシニコフ、レスリー・コリアが踊った。特別な祝祭的な演目として創られた舞台である。
主演ダンサーの一挙手一投足に、コール・ド・バレエのステップの一歩一歩に、ピアニストの奏でる一音一音に、特別な一夜のための思いが込められている。装置も衣装も選曲もそうした観点でなされており、そこがこの作品を上演する際の難しさだろう。
ソリストは神戸里奈と伊坂文月だった。伊坂は柔らかいダンスで、スピード感は少しだけ物足りなかったが安定感のある踊りだった。神戸も特徴のあるダンスで応えていた。ただ動きを集中して、ダンサーとしての存在感をもう少し際立たせて欲しいとも思った。この曲の特徴と明らかに呼応する動きとフォーメーションの展開のコントラストの鮮やかさ、それからソリストとコール・ド・バレエ、男性ダンサーと女性ダンサー、それぞれのコントラストはどうだったろうか。さらにオーケストラとダンスの調和はどうだったろうか。全体のアンサンブルはきちんと整えられていたのはさすがである。コール・ド・バレエを含めたK バレエ カンパニーのバランスの良さ、レベルの高さが証明されていた。
続いて熊川哲也振付の『ヴォルフガング』音楽はモーツァルト。ヴォルフガングの作曲をダンスで表し、サリエリとの関係をスケッチした興味深いモティーフである。モーツァルトに扮したビャンバ・バットボルトが、時折、奇声を上げながら常識には収まりきれない「タレント」を元気よく演じた。サリエリの宮尾俊太郎は落ち着いた踊りで、常識の側の存在感を表した。

『真夏の夜の夢』は、松岡梨絵のタイターニア、遅沢佑介のオベロン、井澤諒のパック、ボトムにバットボルト、ハーミアに浅野真由香、ライサンダーにスチュワート・キャシデー、ヘレナに岩淵もも、デミトリアスに宮尾俊太郎というキャスティング。これがなかなかバランスがよくそれぞれの特徴を紡ぎ、全体に豊穣な感覚があった。中でも出番は少なかったが、キャシデーと宮尾のコンビが良かった。特にキャシデーは演技のできるダンサーを越えて、多彩な表現が出来る俳優ダンサーの境地に至っている。もっと彼の才能が花開く作品に早く出会えればいいのに、と思う。
タイターニアを踊った松岡梨絵はいつに変わらず落ち着いた演舞。演出に忠実に淡々と踊っていて、舞台全体に華やかさを感じさせることできることが彼女のよいところだ。遅沢佑介とのコンビネーションもそつなくみせ、どのパートナーともレベルの高い表現を見せることができる。もう少し思い切ってコミカルな表現にも挑戦してみたらどうだろうか。
遅沢も神々の王として、人間たちの距離感じさせ、悠々と演じた。パックの井澤諒は妖精の雰囲気、闊達さ、オベロンとの関係などこの極めて重要な役どころをよく踊っていた。ただ少々全体的にぎこちなさが残った。もう少し踊り込みが必要なのかも知れない。
(2012年8月28日 Bunkamura オーチャードホール)

撮影:小川 峻毅

撮影:小川 峻毅

撮影:言美 歩

撮影:言美 歩

撮影:言美 歩

撮影:言美 歩

撮影:小川 峻毅

撮影:小川 峻毅

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