サープ+シナトラの神話をビッグバンドが彩った『カム・フライ・アウェイ』

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

BROADWAY MUSICAL "Come Fly Away"

トワイラ・サープ演出・振付『カム・フライ・アウェイ』

トワイラ・サープが演出・振付けた、フランク・シナトラの楽曲構成によるブロードウェイ・ミュジカル『カム・フライ・アウェイ』の来日公演を観た。
サープとシナトラ、といえばもう26年も昔のことだがその印象がまったく色褪せずに脈打ち、ミハイル・バリシニコフが踊った『シナトラ組曲』の舞台が鮮やかに目に浮かんでくる。特別豪華な仕掛けがあった舞台ではなかったが、正装したバリシニコフとエレイン・クドーの流麗なボールルームダンスと、シナトラのボーカルが響く劇場空間が、じつに魅惑的な世界を創った。まさに化学反応を体験したのである。以来、サープ+シナトラという神話が私の中に棲みついている。

そして今回のトワイラ・サープ+フランク・シナトラ+ビッグバンドによるブロードウェイミュージカル『カム・フライ・アウェイ』を迎えた。サープにとっては4作目となるシナトラ・ソングスに振付けたダンスであり、自身で成功した作品と自認するシリーズの集大成になる舞台だ。ビッグバンドが演奏する素敵なナイトクラブで4組のカップルの恋の行方をシナトラの名曲とともに追っていく、という構成である。
それぞれ名前をもつ4組のカップルは、ハリウッドの実在のスターたちのカップルにインスピレ−ションを受けて設定されている。それは例えば、『マーティ』のアーネスト・ボーグナインであり、シナトラ自身と波瀾の恋を展開したエヴァ・ガードナーであり、キャサリン・ヘップバーンとスペンサー・トレイシーだ、というふうにサープ自身が明かしている。

(C)Jun Wajda

(C)Jun Wajda

全体にカップルダンスが中心だが、歌や愛し合うカップルの心の余韻を際立たせるソロ、バックダンサーとカップルの軽妙なアンサンブル、いくつかのカップル同士の競演など、スピーディーなダンスを鍛え上げられたダンサーたちがじつに鮮やかに、さり気なくアクロバティックに踊る。それぞれのダンサーが優れた表現力を備えているばかりてなく、振付家がその個性を際立たせるすべを心得ている。とりわけイオアナ・アルフォンソとジェレミー・コックスのカップルは、やや小柄だが抜群の表現力で舞台をひっぱりユニークなダンスを披露し、強く印象的だった。
シューベルトの曲を使って全幕バレエを振付けたばかり、という70歳を越えて今なお旺盛な創作活動を続けるトワイラ・サープ。このダンスの完璧主義者の次回作にも大いに注目したい。
(2012年7月25日 Bunkamura オーチャードホール)

(C)Jun Wajda

(C)Jun Wajda

(C)Jun Wajda

(C)Jun Wajda

(C)Jun Wajda

(C)Jun Wajda

(C)Jun Wajda

(C)Jun Wajda

ページの先頭へ戻る