悲劇の中の一瞬の救い、プリセツキー&牧阿佐美版『ロメオとジュリエット』
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ワールドレポート/東京
- 関口 紘一
- text by Koichi Sekiguchi
牧阿佐美バレヱ団
アザーリ・プリセツキー、牧阿佐美 演出・振付『ロメオとジュリエット』
牧阿佐美バレヱ団の『ロメオとジュリエット』は、1995年にアザーリ・プリセツキーと牧阿佐美が振付けた。プリセツキーはロシアの芸術家を輩出している一家の出身で、名バレリーナとして知られるマイヤ・プリセツカヤの弟である。牧阿佐美バレヱ団は『ドン・キホーテ』もプリセツキー版をレパートリーとしている。今回の公演では、青山季可と清瀧千晴、日高有梨と中家正博、伊藤友季子と京當侑一籠というトリプルキャストが組まれたが、初日の青山季可のジュリエットと清瀧千晴のロメオを観た。
ヴェローナの街の広場のセットは、背後に一段高い回廊のような通路を通して、下に広場が開け、左右に階段が配されている。この上下2段の構造を持つセットにより、物語が非常にビジュアルに捉え易くなった。ティボルトやキャピュレット家の人々、総督などは下手上手から一度観客の前に姿を現し、この階段から広場の人々を睥睨しながら下りてくる。すると次に起る出来事の予兆を観客が感じていっそうドラマティックな期待が高まる。ちなみにワシーリエフはこの発想をさらに進めて、完全な上下2段のステージを作って、ドラマの進行を同時並行的に見せる『ロミオとジュリエット』を演出・振付けている。
牧阿佐美バレヱ団のホープ、清瀧千晴が初役のロメオに挑戦した。若さを感じさせる踊りで見応えがあったが、演技と踊りがバランスがさらに高まると良い、と思った。マキューシオ役の篠宮佑一のけがで途中から急遽、小嶋直也が踊った。思いがけず菊地研のティボルトと小嶋直也のマキューシオの対決シーンをみることができた。小嶋が加わってロメオ、マキューシオ、ティボルトのアンサンブルのテンポがいっそうよくなったと感じられた。菊地のティボルトはなかなかシャープで引き締まった踊りで気持ちが良かった。そうすると菊地のロメオと小嶋のマキューシオがまた観たくなってしまった。
プリセツキー/牧阿佐美版のもうひとつの特徴は、ラストの墓場のシーンだろう。ベンヴォーリオ(今勇也)の知らせで、追放先から墓場にかけつけたロメオ。(ここでも回廊上の通路が威力を発揮する)彼は棺の上に横たえられたジュリエットをみて嘆き悲しみ毒を呷る。そのロメオが息を絶やすまさにその前に、ジュリエットが仮死の薬から目覚め、ロメオを見つけて歓喜して抱きしめるが、その腕の中でロメオは虚しく息絶える。『ロメオとジュリエット』の悲劇を象徴するような劇瀧なシーンだが、そのわずかなつかの間の再会を救いと捉えることもできるように作られている。見事な演出である。
(2012年6月15日 ゆうぽうとホール)
撮影:山廣康夫