笑いの中に人生の教訓も盛り込まれた絶妙の振付『じゃじゃ馬馴らし』

ワールドレポート/東京

佐々木 三重子
text by Mieko Sasaki

Stuttgart Ballet シュツットガルト・バレエ団

John Cranko "The Taming of the Shrew" ジョン・クランコ振付『じゃじゃ馬馴らし』

ドラマティック・バレエの巨匠、ジョン・クランコの遺産を継承するドイツの名門、シュツットガルト・バレエ団が4年振りに来演した。来日は9回目だが、クランコが独自の解釈を加えた悲劇的な『白鳥の湖』を日本初演するのが注目された。だが最初に上演したのは、お馴染みのコメディ・バレエの傑作『じゃじゃ馬馴らし』だった。シェイクスピアの原作をスカルラッティの音楽を用い(編曲:クルト=ハインツ・シュトルツェ)、2幕のバレエに仕立てたもの。今回は10年振りの上演という。
裕福なバプティスタの長女で嫌われ者のキャタリーナと、気立ての良い美しい次女ビアンカの結婚をめぐる騒動を描いたものだが、メインはキャタリーナで、その手のつけられないじゃじゃ馬振りや、彼女の夫となるペトルーチオの傍若無人さ、ペトルーチオの荒っぽい"調教"、従順な淑女へのキャタリーナの変貌ぶりが見ものといえる。この作品、"踊る名優"とも称されたマリシア・ハイデと最良のパートナー、リチャード・クラガンの主演で観ているので、様々なシーンでの二人の絶妙なやりとりが目に焼き付いてしまっている。だが彼らの演技は別格。現在のダンサーたちがこの作品にどう取り組んでいるか、まっさらな気持ちで観た。

初日にキャタリーナを演じたのは、ベテランのスー・ジン・カン。小柄な身体からエネルギーを放ち、べた足で闊歩し、仏頂面で周囲に当たりちらし、気性の激しさをふりまく一方で、求婚者に囲まれる妹や自分をただのお転婆扱いする周囲への鬱屈した思いを一瞬の演技に滲ませもした。ペトルーチオ役はフィリップ・バランキエヴィッチ。がっしりした体躯から男臭さを発散し、バランスを崩しそうな酔っぱらいの演技から、豪快なジャンプや回転技までダイナミックに踊り、粗野だが温か味のあるペトルーチオを演じた。正にはまり役だった。ペトルーチオがキャタリーナに求婚するパ・ド・ドゥでは、蹴る、殴りかかる、羽交い締めなど、両者の格闘さながらの奮戦ぶりで笑わせた。第2幕のパ・ド・ドゥでは、ペトルーチオがキャタリーナを手荒にリフトし、有無を言わさず振り回して"調教"するうち、彼女は相手に協調する楽しさに目覚め、一緒に踊る喜びを感じるようになるが、この辺の微妙な心の変化を二人は細やかに表現していた。ここでも、言い争いをダンスに転換したような振付の妙に改めて感心した。ビアンカ役のエリザベス・メイソンは愛らしく振る舞い、柔らかに踊ったが、ちやほやされて我がままな性格も匂わせた。ビアンカの心を射止めるルーセンショーを演じたのはマライン・ラドメーカー。容姿も踊りも端整で、コミカルな演技も余裕でこなし、メイソンを引き立てていた。ビアンカの他の求婚者たちや、ペトルーチオを酔わせて身ぐるみはがす娼婦たちも、癖のある演技とダンスで脇を固めていた。

シュツットガルト・バレエ団『じゃじゃ馬馴らし』 Photo:Kiyonori Hasegawa

Photo:Kiyonori Hasegawa

カーニバルのシーンなど群舞の見せ場もあり、笑いの中に人生の教訓も盛り込まれており、様々に楽しめた舞台だった。 (2012年6月1日 東京文化会館)

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