鮮やかな振付と自然な演出が際立ったスターダンサーズ・バレエ団『シンデレラ』
- ワールドレポート
- 東京
掲載
ワールドレポート/東京
- 関口 紘一
- text by Koichi Sekiguchi
スターダンサーズ・バレエ団
演出・振付:鈴木稔『シンデレラ』
スターダンサーズ・バレエ団の『シンデレラ』。鈴木稔が新たに振付けたこのヴァージョンはたびたび上演されているなかなか人気のある舞台だ。特に第二幕の宮殿のシーンは見事に振付けされている。
独特のリズムのプロコフィエフの曲の流れを完璧に把握して、物語のディテールを展開してダンスを構成している。男性ダンサーのパ・ド・シスや群舞をソリストたちの踊りの間に挿入して、この難しい曲の全体の流れのリズム感を出した。四季の精の代わりとなる、シンデレラが普段から可愛がっていたネズミの精のカップルーーカップルで登場させたことも上手いーーが、王子とシンデレラの恋を後押しし、義理の姉妹と義母のハチャメチャな行動を抑える動きも、上手く曲とマッチしたダンスになっている。かなりの長丁場をソロと群舞の巧みな構成で乗り切った振付の手腕は確かなものだ。ただシンデレラと王子のグラン・パ・ド・ドゥはもっと胸に迫ってくるダンスが創れたのではないだろうか。このシーンの照明も、多くの振付では、月明かりのような幻想的なものが使われているが、この演出でそれ以上の効果が得られているとは言えないのではないだろうか。
それから父親が超多忙なビジネスマンのために家庭をかえりみず、シンデレラと義理の母や姉妹の関係が歪んでいる、という設定は物語の展開上は理にかなっている。特にラストシーンの、王子と一緒になりたい一心で、大切な一方のガラスの靴を壊してしまうという大罪を犯した義母を庇おうとして、シンデレラが隠し持っていたもう一方の靴を、みんなの前でおもわず落としてしまう演出は鮮やか。様々なこの作品のヴァージョンが様々に工夫を凝らしているが、なかなか上手く演出できないこのシーンを、じつに自然な流れの中でリアルに表現した。私はこのシーンのこれ以上に優れた演出を知らない。
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しかし、このシーンの演出に関しては優れているのだが、この設定自体は、ビジネスに没頭していた実の父親は本来は良い人で、家庭さえ細かく配慮すれば、すべては救われる、というのはホームドラマの設定だろう。家族も親しい友人もいない天外の孤独にも負けず、明るく素直で優しい心を失わないシンデレラにこそ奇跡は起こるのではないか、四季の精は天が遣わした天使なのではないだろうか。
ホームドラマ的なストーリーの解決は、理にかなっているものの、少々、物語の世界がこじんまりとまとまってしまったきらいが無きにしもあらずである。
シンデレラを踊った林ゆりえも王子役の吉瀬智弘も振付家の意図を良く理解して踊っていた。
(2012年4月28日 テアトロ・ジーリオ・ショウワ)
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