ヴェルディ曲、プリセツキー、牧阿佐美 演出・振付『椿姫』の格調高い優れた舞台

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

牧阿佐美バレヱ団

『椿姫』アザーリ・M・プリセツキー:演出・振付、牧阿佐美:一部振付

牧阿佐美バレヱ団が『椿姫』全2幕を上演した。
バレエ『椿姫』は、去る10月10日ガルニエ宮でアデュー公演を行ったパリ・オペラ座のアニエス・ルテステュがエトワールとして踊る最後の演目に選び注目を集めた。アニエスが選んだのはノイマイヤー版でショパンの音楽を使用しているが、牧阿佐美バレヱ団が1998年に初演して以来レパートリーとしているヴァージョンは、アザーリ・プリセツキーと牧阿佐美の共同振付作品。音楽はオペラ『椿姫』のヴェルディの曲を使用している。これとは別に牧阿佐美は新国立劇場バレエ団にベルリオーズの音楽を使用して振付けていて、これは近年、ボリショイ・バレエ団がボリショイ劇場で上演して話題となった。
今回、牧阿佐美バレヱ団は、マリインスキー・バレエ団からマルグリット・ゴーティエ役にダリア・ヴァスネツォワを、アルマン・デュバル役にデヴィッド・マカテリを招いた。そのほかはガストンを菊地研、オリンピアを吉岡まな美、伯爵を森田健太郎、アルマンの父親を保坂アントン慶、伊藤友季子、青山季可はマルグリットの友人とスペインの踊り、というキャストで2公演を行った。記録を見ると前回の再演は2000年で、今回の再演に当たっては衣裳をすべて新たにしたという。美術は牧阿佐美バレヱ団のやはりプリセツキー演出・振付の『ロメオとジュリエット』、プロコフスキー演出・振付の『三銃士』を担当したアレクサンドル・ワシリエフ。

物語に大きな変更を加えることなく、2幕4場とエピローグに構成している。演出的な見せ場は、ラストのマルグリットの死のシーンと、父親によって引き裂かれたアルマンが、パリでマルグリットと再会してお互いを避けていたが、耐えられず、ついに爆発するシーンだろうか。どちらも演出的に優れている。しかしやはり、第1幕のマルグリットのサロンの群舞とその流れが見事。高級娼婦として歓楽に明け暮れているが、決して心が満たされることがないマルグリットの日常に、何ものにも代え難い若さにあふれるアルマンが、突如、侵入して始まるドラマが、じつに説得力をもって描かれる。ガストン役の菊地研が巧みに動いて、ドラマの背景を分かり易く見せていた。
第2幕のパリ郊外の別荘では、束の間の幸せに満たされたマルグリットとアルマンのシーン。村人たちの明るい踊りが、束の間であるが故の幸せを歌うかのように踊る。
そしてラストでは、マルグリットの死に際した幻想が美しく舞踊的に処理されて、悲劇の情感を厳かに高め、格調を保ったエンディングだった。
マルグリットに扮したダリア・ヴァスネツォワは全身を使って表現し、良く踊っていた。やや小柄な身体を補う大きな演技が少なかったのが惜しまれる。主役として一際際立ったものがもう少し欲しいような気がしたがどうだろうか。英国ロイヤル・バレエ団ではプリンシパルとして活躍したキャリアを持つデヴィッド・マカテリはアルマンに扮して、愛に一途に突き進む力を踊った。それは観客の心の深部まで届いただろうか。私はわざわざロシアから招いたゲストアーティストとしては、少し物足りなかったような気がしないでもなかった。次回はぜひ、カンパニーのダンサーを主役として起用していただきたい、と思った。
(2013年10月20日 ゆうぽうとホール)

「椿姫」ダリア・ヴァスネツォワ、デヴィッド・マカテリ(10月19日) 撮影/鹿摩隆司

「椿姫」ダリア・ヴァスネツォワ、デヴィッド・マカテリ(10月19日)
撮影/鹿摩隆司

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