吉田都、ボネッリ、小林ひかるが踊った「20世紀のマスターワークス」の輝き

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

スターダンサーズ・バレエ団「20世紀のマスターワークス」

" The Four Temperaments" by George Balanchine , " Afternoon of a Faun" by Jerome Robbins , " Scotch Symphony" by George Balanchine
『フォー・テンペラメント』ジョージ・バランシン:振付、『牧神の午後』ジェローム・ロビンス:振付、『スコッチ・シンフォニー』ジョージ・バランシン:振付

スターダンサーズ・バレエ団が吉田都、フェデリコ・ボネッリ、小林ひかるをゲストに迎え、バランシンとロビンス作品による「20世紀のマスターワークス」公演を開催した。演出・振付の指導は、ニューヨーク・シティ・バレエ団で踊り、後にチューリッヒ・バレエ団でも踊ったベン・ヒューズ。
まずバランシンの『フォー・テンペラメント』。良く知られるように『フォー・テンペラメント』は、ドイツ人の新古典主義音楽家パウル・ヒンデミットにバランシンが個人的に作曲を依頼し、1940年も完成した『4つの気質』主題と4つの変奏曲に振付けたもの。題名通り「メランコリック(憂鬱)」「サンギニック(快活)」「フレグマティック(無気力)」「コレリック(怒り)」といった4つの気質を表わす踊りが踊られる。
福原大介、林ゆりえ、吉瀬智弘、フェデリコ・ボネッリ、小林ひかるがプリンシパルを踊った。クラシック・バレエの型を越えたステップを編み出す様々な工夫が感じられる作品だ。気質という「抽象的なテーマ」を活き活きしたステップで描き出す試みだが、作品全体で人間的なるものを表わそうとしているのが分る。今日観ても爽やかな印象を残す、バランシンらしい踊る楽しさが感じられる舞台だった。

『フォー・テンペラメント』林ゆりえ 吉瀬智弘 Photo/ Takeshi Shioya 〈A.I Co.,Ltd.〉

Photo: Takeshi Shioya 〈A.I Co.,Ltd.〉

Photo: Takeshi Shioya 〈A.I Co.,Ltd.〉

Photo: Takeshi Shioya 〈A.I Co.,Ltd.〉

マラルメの詩に触発されてドビュッシーが作曲した『牧神の午後への前奏曲』に振付けたバレエとして、スキャンダルを巻き起こしたニジンスキーの作品が名高い。
しかし、ロビンスはまったく異なった設定の基に新たなバレエを創った。
午後のバレエスタジオのゆったりと時間が流れる物憂いひと時。バレエダンサーが夢みた午睡の一景を描いたもの。林ゆりえと吉瀬智弘が踊った。吉瀬は大きな動きをしっかりと踊り、身体全体で陥った幻想的雰囲気を表わした。林は実体的な存在感を否定した存在として、仄かな甘い色香を漂わせ妖精が恋したかのような印象を舞台に残した。パ・ド・ドゥなのだが、もうひとつの存在が意識された動きの構成がユニークで興味深かった。

『牧神の午後』Photo/ Takeshi Shioya 〈A.I Co.,Ltd.〉

Photo: Takeshi Shioya 〈A.I Co.,Ltd.〉

『牧神の午後』林ゆりえ 吉瀬智弘 Photo/ Takeshi Shioya 〈A.I Co.,Ltd.〉

Photo: Takeshi Shioya 〈A.I Co.,Ltd.〉

『スコッチ・シンフォニー』はメンデルスゾーンの『交響曲第3番スコットランド』にバランシンが振付けた1952年の作品。良く言われるようにエディンバラ・フェステイヴァルで観た、バグパイプとドラムとダンスによる伝統的なパフォーマンスに触発されて創った。
まず、最初の第2楽章(第1楽章は振付はカット)を踊った赤い帽子、赤いトップと赤いチェックのスカート、赤いロングソックスの渡辺恭子が魅力的だった。この見事な衣裳はカリンスカとデイヴィット・フォークスが創った。続いて吉田都とボネッリのペアが踊る。コール・ド・バレエは8組のペアを組んだり、それぞれのフォーメーションを見せたりしながら進む。ここでもピンクのチュチュの女性ダンサーと黒を基調とした男性ダンサーのコントラストが鮮やか。

Photo: Takeshi Shioya 〈A.I Co.,Ltd.〉

Photo: Takeshi Shioya 〈A.I Co.,Ltd.〉

ボネッリは清々しい印象で若々しくステップも軽やか。吉田都は正確にステップを踏むばかりでなく、じつに可憐な雰囲気を表わして舞台を彩った。色彩の躍動がスコットランドという国の文化を表現して余りあるものがあった。
全体にメンデルスゾーンの曲の明るく快活な曲調と、ステップと色彩の乱舞が織り成す素敵な世界が舞台に出現した。妖精の結界がなかなか乗り越えられないボネッリは、純真な気持ちをよく表わして踊った。
バランシン、ロビンスの作品は、時を経ても色褪せることなく。ダンスの素晴らしさを教えてくれた。まさに20世紀のマスターワークだった。
(2013年8月17日 テアトロ・ジーリオ・ショウワ)

『スコッチ・シンフォニー』渡辺恭子 大野大輔(右) 川島治 Photo/ Takeshi Shioya 〈A.I Co.,Ltd.〉

Photo: Takeshi Shioya 〈A.I Co.,Ltd.〉

ページの先頭へ戻る