島田衣子が著しい進境を見せ、エマニュエル・ティボーと『白鳥の湖』を踊った
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ワールドレポート/東京
- 佐々木 三重子
- text by Mieko Sasaki
井上バレエ団
『白鳥の湖』関直人:振付
井上バレエ団が創立45周年を記念して、チャイコフスキーの3大バレエの連続上演を企画。まず『白鳥の湖』で幕を開けた。芸術監督・関直人の振付、英国のピーター・ファーマーの美術・衣裳によるプロダクションで、今回が六年振りの上演という。オデット/オディールは、出産を経て、昨年『ジゼル』で復帰した島田衣子。彼女にとっても6年振りの『白鳥の湖』だった。ジークフリード王子はパリ・オペラ座バレエ団のプルミエダンスール、エマニュエル・ティボーで、井上バレエ団には2007年から毎年客演している。島田とは何度もパートナーを組んでいるが、この作品での共演はもちろん初めてである。
ティボーは、日本人の中に入ると、王子という役以上に抜きん出た存在に見えた。そのためか、回りに溶け込めないのか、どこか浮いているようにも見えた。誠実な演技にはとても好感が持てたが、何の役を演じても同じような印象を与えてしまうのは、役になりきるタイプではないからか。テクニックは安定しており、舞踏会での見せ場では、しなやかなジャンプやリズミカルな回転を披露した。オデットの島田は、繊細なパ・ド・ブレや羽ばたくような柔らかい腕の動き、しなやかな脚さばきが素晴らしく、王子の胸に背を預けるようにして心の内を伝えもした。オディールでは奔放な美しさを放ち、王子の反応を確かめながらオデットの仕草を真似て王子を惑わす演技もこなれていて、ダブルを入れたスピード感溢れるフェッテで見事に王子の心をとらえた。二人の息もよく合っていたようだ。
「白鳥の湖」写真提供/井上バレエ団
宮嵜万央里、田川裕梨、荒井成也によるパ・ド・トロワは、少しブレた人もいたが、アンサンブルとしてまとまっていたし、各国の民族舞踊も卒がなかった。関の演出はオーソドックスで、展開もスムースだが、踊りと踊りの間など、ドラマが途切れてしまう所が気になった。隙がなく優れていたのは第4幕で、群舞の白鳥の均整のとれた美しいフォメーションや、オデットと王子とロットバルトの戦いなど、緻密な構成だった。指揮はバレエを良く知る大ベテランの福田一雄。だが、やや荒々しい所があり、特に終盤のクライマックスで、打楽器などに耳をふさぎたくなるほど騒々しい音を鳴らさせたのには閉口した。ともあれ記念企画の第1弾であり、久々の『白鳥の湖』だっただけに、細部への配慮や意気込みが感じられる公演だった。
(2013年7月20日 文京シビック大ホール)
「白鳥の湖」写真提供/井上バレエ団
「白鳥の湖」写真提供/井上バレエ団