ウィールドン特有のテンポの速い追いかけっこが楽しかった『真夏の夜の夢』

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

NBAバレエ団

『真夏の夜の夢』クリストファー・ウィールドン振付、『ケルツ』ライラ・ヨーク振付

NBAバレエ団が二つの日本初演作品を上演した。
ひとつは『ケルツ』。これはポール・ティラーのカンパニーで踊り、英国バーミンガム・ロイヤルバレエやノースウェスト・バレエなどに振付作品を提供しているライラ・ヨークの作品。
アイリッシュ・ダンスをベースとしてケルト民族が渡来して来た以降のアイルランドの歴史をイメージしたシーンを折り重ねたもの。群舞は特有の上半身を動かさず下半身を中心としたステップで踊るアイリッシュ・ダンスだった。ケルト文化はキリスト教普及以前の古代から中世にかけてヨーロッパで発達した。神話や美術など今日のヨーロッパの文化に影響を与えているものも少なくない。ダンスもアイリッシュ・ダンスが注目され、世界を回るツアーなども行われている。

「ケルツ」撮影/高橋忠志

「ケルツ」撮影/高橋忠志

「ケルツ」撮影/高橋忠志

「ケルツ」撮影/高橋忠志

続いて、2011年、英国ロイヤル・バレエ団に1985年以来の新しい全幕バレエ『不思議の国のアリス』を振付け、大ヒットさせたクリストファー・ウィールドンの『真夏の夜の夢』。これはニュ−ヨーク・シティ・バレエなどで仕事をしたウィールドンが、アメリカで最初に振付けたバレエである。
物語はシェイクスピアの『真夏の夜の夢』に基づいている。妖精たちを絶えず両手を緩やかに動かすことによって、妖精であることを表している。
妖精の王オベロンと妃のタイターニアは、インドの美少年を巡って対立、今は仲があまりよろしくない。一方、人間世界では恋のマッチングがうまくいかず、いやがる相手を追いかけ回し逃げ回る恋人たちを、ウィールドンらしい速いテンポで小気味よく展開する。
オベロン、タイターニアそれぞれのお付きの妖精たちのアンサンブルは、男性の妖精とパック、そして女性の妖精たちがたくさん踊って、妖精たちの世界全体がよく表されていた。一幕の見せ場は、ロバの頭を被せられたボトムに、惚れ薬をかけられたタイターニアが、洞窟の寝屋へと誘惑するシーンだろう。誘惑に反応して耳を立てるなど、若干のサービスもあって観客も喜んでいた。
第2幕は、恋人たちのミスマッチを楽しむパックをオベロンが諫め、めでたしめでたしの組み合わせを整えさせる。そしてインドの美少年をめぐって争っていたオベロンとタイターニアも、人間たちをまるく収めたのちに仲直り。オベロンに肩車されたインドの美少年をタイターニアが優しく見詰めると言うふうにとても円満となった。タイターニアもロバの頭をした愛人にはこりごりだろう。
そしてメンデルスゾーンの名曲とともに、マッチングを整えられた恋人たちの結婚式が行われる。最後の最後は、オベロンとタイターニアの美しいパ・ド・ドゥ。妖精の国の王と妃らしく、天上の国で踊られているごとく、なかなか豪華で幻想的雰囲気が漂う振付だった。全体にディテールにまで良く気が配られた舞台だった。
オベロンをサンフランシスコ・バレエのプリンシパル、ダヴィット・カラペティヤンが踊り,タイターニアは沖縄出身で中国遼寧バレエ団でプリンシパルを務める長崎真湖が踊った。
またこうした日本ではあまり知られていない作品も紹介していただきたい。
(2013年6月23日夜 メルパルクホール)

「真夏の夜の夢」撮影/高橋忠志

「真夏の夜の夢」撮影/高橋忠志

「真夏の夜の夢」撮影/高橋忠志

「真夏の夜の夢」撮影/高橋忠志

ページの先頭へ戻る