東京バレエ団の若手が期待に応えて充実した舞台を見せた『ラ・シルフィード』
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ワールドレポート/東京
- 佐々木 三重子
- text by Mieko Sasaki
東京バレエ団
『ラ・シルフィード』ピエール・ラコット:振付
東京バレエ団がロマンティック・バレエの傑作『ラ・シルフィード』を3年振りに上演した。来年の創立50周年に向けたプレ企画、〈バレエ・ブラン・シリーズ〉の第一弾。フィリッポ・タリオーニの原振付を復元したラコット版をレパートリーに持つのは、日本では東京バレエ団だけである。スコットランドの農村を舞台に、妖精シルフィードが農夫ジェイムズに恋をし、ジェイムズもエフィーとの結婚式を控えながらシルフィードに魅せられたために起こる悲劇が描かれる。結局、ジェイムズはシルフィードを捕えようとして死なせてしまい、さらにエフィーが友人ガーンと結婚したことを知り、気を失って倒れる。今回は、シルフィードとジェイムズに抜擢された若手の活躍が注目された。ダブルキャストで、初日は渡辺理恵と柄本弾、2日目は沖香菜子と松野乃知という組み合わせ。その初日を観た。
photo:Kiyonori Hasegawa
渡辺にとってシルフィードは初役。バランスの良いプロポーションの持ち主で、楚々とした雰囲気を持ち合わせているのも強みだろう。イスに座ってまどろむジェイムズを見つめるまなざし、特色ある指先の仕草や繊細な腕の動き、柔らかな上体と軽やかな脚さばき、優美な跳躍など、まだ硬さは感じさせたものの、はかなげな妖精を思わせるように卒なくこなしていた。一方、柄本にとっては2度目のジェイムズ役。舞台で確たる存在感を示すなど、若手スターとしての貫録を備えてきた柄本だが、今回は、隙あればエフィーに近づこうとするガーンを跳ね除けながら、自分はシルフィードに惹かれるのを抑えきれない青年の役。そんなジェイムズの心のぶれを、何かに夢中になると他が目に入らなくなり突き進んでしまうといった、危うさのある情熱で造形してみせた。キルトスカートでのシャープなステップや身のこなしも板についてきたようだ。
エフィー役の吉川留衣は、ジェイムズに振り回されながらもついていこうとする素直で控え目な娘の役を好演した。ジェイムズとエフィーの踊りにシルフィードが割り込むパ・ド・トロワは、ラコット版の最大の特色といえる。ジェイムズを信頼し切っているエフィー、彼への思いを切なくも募らせていくシルフィード、二人を交互にサポートしてその場を繕う心の定まらないジェイムズと、三者三様の心の内が絡み合い、緊迫感を紡いだ。ガーン役は永田雄大。友人の結婚相手に愛を告白するなど、大胆で抜け目のないガーンを直情的に演じていた。なお、この作品では第2幕のシルフィードたちの群舞も見せ場の一つ。均整のとれたフォメーション、精緻なアンサンブルで、軽やかに舞う様が幻想的だった。
photo:Kiyonori Hasegawa
今回の公演は隅々まで行き届いていて、総じてレベルの高さをうかがわせた。これには、振付指導に当たった斎藤友佳理の功績が大きそうだ。シルフィードを当たり役にした斎藤は、ラコット本人やラコット版の初演時にシルフィード役を務めたギレーヌ・テスマーに指導を仰いだこともあるだけに、作品を知り尽くしている。さらに、2011年から、モスクワ音楽劇場バレエでの『ラ・シルフィード』でラコットのアシスタントを務めてもいる。こうした経験の蓄積が今回の成果につながったのだろう。これからも、ラコット版『ラ・シルフィード』の伝統を正しく伝えて欲しいと思う。
(2013年6月15日 東京文化会館)