「時代」を顕著に表現しつつ、ともに踊られていくバランシンとビントレーの3作品

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

新国立劇場バレエ団「ペンギン・カフェ2013」

『シンフォニー・イン・C』ジョージ・バランシン:振付、『E=mc²』デヴィッド・ビントレー振付、
『ペンギン・カフェ』デヴィッド・ビントレー振付

「ペンギンカフエ2013」はジョルジュ・ビゼー曲による『シンフォニー・イン・C』から始まった。良く知られる若き日のビゼーが17歳の時に作曲した若々しさが煌めく曲に、1947年、パリ・オペラ座時代バランシが振付けたもの。作曲者ビゼーの若さに、パリ解放後の新しい時代の香りが重ね併せて感じられるかのように、明るく、愛らしい動きがふんだんに採り入れられている。ダンサーのアンサンブルはとても良くまとまっていた。ただ、動きの表情と全体の流れのバランスはいいのだが、もう少し魅力が観客にアピールされてもいいのではないか、とも感じてしまった。多少バランスが崩れてもダンサーそれぞれが発する愛らしさとか優しさ、力強さといったものが醸す魅力もまた捨てがたい。例えば、マリインスキー・バレエが踊るバランシンには、特にチャイコフスキーの場合はそうした独特の魅力が発露しているのではないか。そんな印象も受けたのだった。

続いてマシュー・ハイドソン作曲による『E=mc²』。2009年にビントレーがアインシュタインの方程式を、デヴィッド・ボダニスの同名の著作「E=mc²」に触発されて振付けたという。三つのパートに分けられ、途中に「マンハッタン計画」が挿入されている。最初は「エネルギー」続いて「物質」、「マンハッタン計画」、そして「光速の二乗」となっている。
「エネルギー」は福岡雄大と米沢唯のペアを中心に数多くのペアが単位となりパワフルに踊る。「物質」は小野絢子、長田佳世、寺田亜沙子のトリオを中心とした三組のトリオが踊るが、三組のペアとなり、再び三組のトリオとなる。

新国立劇場バレエ団「ペンギン・カフェ 2013」 『E=mc²』五月女遥、福田圭吾 撮影:鹿摩隆司

『E=mc²』撮影:鹿摩隆司

「マンハッタン計画」は湯川麻美子のソロ、被爆国を表す扇を持って鎮魂を表すかのような静かな踊り。背後の核爆発の映像が人類をやき尽くすかのように感じられる。最後は機械的配列光の円を背景に活発な群舞。思ったよりもきれいに構成が整えられて、光の使い方も上手く、光の原理が織りなす世界観が分かり易かった。
しかしきれいだっただけに、人間の五感を超越した「宇宙の法則」があまり実感的に迫って来なかった。核こそ人間のコントロールを超えた事象ではないだろうか。

『ペンギン・カフェ』はおもしろいが、もちろんやがて悲しい。絶滅危惧種の動物たちが、ペンギン(さいとう美帆)のカフェに客として次々登場。それぞれのお国ぶりなど交えて踊る。最期に登場するのはブラジルのウーリーモンキー(福岡雄大)で、派手な衣装で踊るうちにサンバのリズムが鳴るカーニバルとなる。そこにユタの貴婦人の踊りを踊ったオオツノヒツジ(湯川麻美子)、可愛く身軽に踊ったテキサスのカンガルーネズミ(八幡顕光)、転がるようにリズミカルに踊った豚鼻スカンクにつくノミ(高橋有里)、手(足?)の房が痛々しかったケープヤマシマウマ(奥村康祐)、しがみつくように身を寄せ合った熱帯雨林の家族(本島美和、貝川鐵夫)たちも集まってきて、盛んに踊るが、爆弾低気圧や激甚豪雪が襲いかかり、やがて地球は沈む・・・ラストはペンギン・カフェのマスターが愛想を込めて「どうぞ」と。
「ちくりと現代を風刺」するとは言ってはいられない、強烈なアイロニーが効いたエンディングであった。
(2013年4月28日 新国立劇場 オペラパレス)

新国立劇場バレエ団「ペンギン・カフェ 2013」 「シンフォニー・イン・C」米沢唯、菅野英男 撮影:鹿摩隆司

『シンフォニー・イン・C』撮影:鹿摩隆司

新国立劇場バレエ団「ペンギン・カフェ 2013」 『ペンギン・カフェ』さいとう美帆 撮影:鹿摩隆司

『ペンギン・カフェ』撮影:鹿摩隆司

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