衣裳、装置、演出、そして音楽と振付が見事に調和して、素敵な「シンデレラ」が誕生した

ワールドレポート/東京

関口 紘一
text by Koichi Sekiguchi

K-BALLET COMPANY

『シンデレラ』熊川哲也:演出・振付

K-BALLET CAMPANYの『シンデレラ』は、熊川哲也のオーチャードホール芸術監督就任を記して、昨年2月に世界初演された。熊川にとっては9作目にあたるグランド・バレエの演出・振付作品である。
この魔法のファンタジーは、ロイヤル・バレエの大先輩のアシュトンを始め数多くの振付家により制作されているが、熊川版は私が観た過去のどの作品にも負けない見事な出来映えの舞台だった。衣裳、装置はじつに美しくこの物語を輝かせ彩っているし、シンデレラという少女の天使のような優しさこそが、奇跡を起こすのに相応しいと、演出家は信じ訴えている。演出・衣裳・装置、そして音楽と振付が融合した舞台が、見事なバランスを保って奇跡の物語を構築している。熊川は過去の全幕作品のように、自ら主演せず演出・振付に専念してプロコフィエフの音楽と対話を繰り返して想を練り、ディテールの豊穣と洗練されたバランスを創ることができたのではないだろうか。

タイトルロールのシンデレラ役は、初役の日向智子だった。舞台姿を観てまず目についたのは、健康そうなよく動く脚。小柄ながら俊敏で隅々まで神経が行き届いたバランスの良さ。そして何よりも、この奇跡の物語のキー・ポイントとなるシンデレラの繊細なガラスの靴が良く似合いそうだった。
仙女を踊ったのは浅川紫織で落ち着いて務め、舞台全体の流れをスムーズにした。シンデレラの二人の義姉は岩淵ももと湊まり恵で、義母役のルーク・ヘイドンとともにオリジナル・キャスト。なかなかツボを心得た踊りと演技だった。さらに四季の精の代わりに、バラ、トンボ、キャンドル、ティーカップの精が登場し、神戸里奈、中村春奈、白石あゆ美、佐々部佳代が踊った。神戸は華やかに踊り、佐々部は滑らかな流れのある踊りで印象に残った。王子の友人に橋本直樹、大きい騎士に遅沢佑介、式典長にはスチュワート・キャシディが扮するという具合にソリストを要所に配して、巧みに2幕全体のアンサンブルを踊った。
また振付、演出が、傑作といわれるプロコフィエフの音楽の1音も漏らすまいと、非常に良く音を感受し決して蔑ろにしていない。それだけ音感が優れていることはもちろんだが、自然に舞台には必要な登場人物も多くなる。音に鋭敏に機能することで舞台は豊穣となる。ヴァイオリニストは二人だし、宮廷の道化もまた二人必要となる。道化が二人で12時を知らせる時計の針を持って時を告げる秀逸のシーンも生まれた。バレエ教師、美容師、靴職人、仕立て屋、宝石商すべてがアンサンブルとなってシーンを構成しているのである。

K-BALLET COMPANY『シンデレラ』 撮影/瀬戸秀美

撮影/瀬戸秀美

シンデレラの真実の優しさが明らかになった後、エピローグ風のラストは、王子と美しく着飾ったシンデレラが銀の馬車に乗り魔法が解けた召使いたちに曳かれて、満天の星空の下へとゆっくりと進んでいく、という堂々たるエンディングだった。宮尾俊太郎は王子役らしい鷹揚さを表わして踊り、やや小柄で敏捷な日向のシンデレラとバランスの良いコトラストを描いた。
(2013年3月6日 Bunkamura オーチャードホール)

K-BALLET COMPANY『シンデレラ』 撮影/木本忍

撮影/木本忍

K-BALLET COMPANY『シンデレラ』 撮影/木本忍

撮影/木本忍

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