著しい進境を見せた笠井端丈が上村なおかと踊った『海とクジラ』

ワールドレポート/東京

佐々木 三重子
text by Mieko Sasaki

笠井端丈×上村なおか『海とクジラ』

笠井端丈:構成・演出・振付/ピアノ演奏:高橋悠治

このところ充実した活躍が目立つダンサー・振付家の笠井端丈が、実生活のパートナーでもある上村なおかと組み、異色の作曲家・ピアニスト、高橋悠治を迎えて、70分の新作『海とクジラ』を発表した。二人にとっては『青空散歩』に続く4年ぶり2作目のデュオ作品で、笠井が構成・演出・振付を手掛けた。高橋の弾くピアノを空から降る雨のように感じたという笠井が、その雨が流れて行き着く先の広大な音の海で、二人で思い切り泳ぎたいという想いを実現させたのが今回の作品である。ステージは四角い黒い床とそれを囲む太い白い枠というシンプルなもので、グランドピアノは下手寄り手前に置かれていた。

冒頭、全裸に近い姿で彫像のように立つ笠井が、無音の中、ほのかなスポットライトを浴びながら、鍛え上げた筋力を駆使して上体を曲げ、歪めてみせた。同時に、何事にも屈しない逞しい精神力もうかがわせた。ここで、自身の出発点である舞踏を提示したのだろう。高橋がバッハの「ゴルトベルク変奏曲」の一曲を弾き始めると、裾がブルーの白いワンピースを着た上村のソロになった。「イギリス組曲」やブゾーニ編曲の「シャコンヌ」などのバッハのほかに、シェーンベルクやバルトークも演奏したが、高橋のピアノは、ダンスを仕掛けたり二人を絡め取ったりするのではなく、淡々と寄り添い支えるように響いた。

『海とクジラ』撮影:金子愛帆

撮影:金子愛帆

父・笠井叡や山崎広太に舞踏やダンスを学んだ端丈と、木佐貫邦子と笠井叡にダンスやオイリュトミーを学んだ上村だけに、クロスする部分は多いはずだが、同化するのではなく、デュエットでも距離感を保ちながら互いの個性を共振させていった。ただ、上村が振りは変えても、ほぼ一貫した雰囲気を醸していたのに対し、笠井は様々に変容するのを楽しんでいるように映った。特にチャイコフスキーの「バルカロール」では、鳥の巣のような帽子を被り、ロングドレスで女装した笠井が、驚くほどたおやかな腕の動きや身のこなしを見せた。高橋のピアノに触発されたこともあるだろうが、総じて笠井の確かな進境がうかがえた公演だった。
(2013年2月24日 赤レンガ倉庫1号館3階ホール)

『海とクジラ』撮影:金子愛帆

『海とクジラ』撮影:金子愛帆

『海とクジラ』撮影:金子愛帆

『海とクジラ』撮影:金子愛帆

『海とクジラ』撮影:金子愛帆(すべて)

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