ナイフによって愛の情念の極北を描いたスペイン舞踊劇の傑作『メディア』
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ワールドレポート/東京
- 関口 紘一
- text by Koichi Sekiguchi
スぺイン国立バレエ団
『グリート』アントニオ・カナーレス:振付、『セビリア組曲』アントニオ・ナハーロ:原案、振付、演出、『ホタ〜スペインのオペラ「ラ・ドローレス」より』ピラール・アリソン:振付、『ファルーカ〜フラメンコ断章』フアン・キンテーロ:振付、『ボレロ』『メディア』ホセ・グラネーロ:振付
スペイン国立バレエ団が6年ぶりに来日した。
芸術監督は2011年に35歳の若さで就任したアントニオ・ナハーロ。今回がスペイン国立バレエ団芸術監督としては初来日公演となる。97年から5年間このカンパニーでダンサーとして踊ったが、その後自身のカンパニーを設立して9年間活動した後に、芸術監督として復帰したことになる。
スペインはたいへん豊富な舞踊の資源国である。それぞれ気候や文化の異なる地方に様々な舞踊があり、宮廷舞踊から発展してきたクラシコ・エスパニョール、そして世界に誇るフラメンコがある。こうした豊かなスペインの舞踊を国立バレエ団としてどのように発展させていくのか、フラメンコやクラシック・バレエにさえコンテポラリーなものを採り入れていこうという動きがある一方、古典への回帰も叫ばれるなど、とても単純に対応して事足りるわけではあるまい。フィギュアスケートの振付もこなし、ソルトレイクのオリンピックではアイス・ダンスのフランス代表に金メダルをもたらす振付を行ったという、ナハーロ芸術監督の手腕に期待が掛かること大である。
また、スペイン国立ダンス・カンパニーの芸術監督にオペラ座のエトワールだったジョゼ・マルティネスが就任したことなどから、スペインの舞踊に関する事情は変化する可能性もある。われわれもそうした意識でみるからだろうか、今回の公演では、クラシック・バレエも含めたスペインの国民的舞踊表現を創ることを目指すといった、当初の少々中途半端に感じられる部分はなくなり、スペイン本来の舞踊表現を創造しようとしていると感じられる舞台となっていてすっきりした。芸術監督がフィギュアスケートの振付をするからというわけでもないだろうが、エンターテイメントとしても十分に見応えがあり、楽しめるように創られている。特に、衣装はスペインの特色を十分に生かしてなおかつ、バラエティーに富んで魅力的。スペインを感じさせる色彩とデザインが、スピーディな群舞構成に十分生かされている。
プログラムはAプロがアントニオ・カナーレス振付『グリート』、アントニオ・ナハーロ芸術監督が原案、振付、演出した『セビリア組曲』、Bプロがピラール・アリソンが父親のペドロ・アリソンに想を得て振付けた『ホタ〜スペインのオペラ「ラ・ドローレス」より』、フアン・キンテーロ振付『ファルーカ〜フラメンコ断章』、ホセ・グラネーロ振付『ボレロ』『メディア』。
私はやはりまず『メディア』に感銘を受けた。ギリシャ悲劇の舞台をフラメンコの地、アンダルシアに置き換えて真正面からスペイン舞踊劇として創り、見事成功している。ラメンコの舞踊表現であるサパテアードによってドラマティックな劇的効果をいやが上にも高め、時にはまるで言葉の激しい応酬のように巧みに使っている。
「グリート」Photo/YUKI OMORI
そしてナイフ。およそスペインの優れた悲劇には必ずと言っていいほどナイフが登場する。『カルメン』しかり『血の婚礼』しかりである。すべて鋭いナイフの一閃によってドラマは帰結を迎える。しかし、メディアのナイフは対立する相手自身ではない。彼女が最も愛している二人の子供へとその切っ先は向けられる。愛のひとつの極北が、スペイン舞踊のあらゆる表現を用いて描かれる傑作である。
ナハーロ監督が振付け、日本初演となった『セビリア組曲』はスペイン舞踊の様々な要素をショーアップして構成したもの。キリストやマリア像が街中を歩くセビリアの聖週間や、闘牛の世界を様々な要素に分けて踊りを構成するなど、楽しく美しく魅力的な舞台だった。スペインのアラゴン地方の闊達な踊りホタをフューチャーした『ホタ〜スペインのオペラ「ラ・ドローレス」より』、ラヴェルの『ボレロ』を絢爛のイメージで展開したホセ・グラネーロ振付の『ボレロ』などなど、舞踊の王国スペインの迫力溢れる舞台に圧倒された公演だった。
(2013年2月1日Aプロ、2月6日Bプロ Bunkamura オーチャードホール)
「メディア」Photo/YUKI OMOR
「メディア」Photo/YUKI OMOR
「メディア」Photo/YUKI OMOR
「メディア」Photo/YUKI OMORI
「ボレロ」Photo/YUKI OMORI
「ホタ〜スペインのオペラ
『ラ・ドローレス』より」
Photo/YUKI OMORI
「セビリア組曲」Photo/YUKI OMORI
「セビリア組曲」Photo/YUKI OMORI
「セビリア組曲」Photo/YUKI OMORI